Reborn

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彼は歩くのが速い。 茉子は異常に吊り橋が揺れるのが怖くて、何度も止まってしまう。 「ごめんなさい。足が、すくんでしまって」 茉子が言うと 「死のうとしてる人がビビってどうすんの?」 と、彼はまた学生みたいな笑顔で笑った。 吊り橋効果と言われてる、男女が一緒に吊り橋を渡ると恐怖心から恋愛感情が生まれるというが、彼があまりにも若すぎるため、茉子はまるで自分の息子と手を繋いでいるような気分にしかならない。 それは彼も同じなようで、母親をからかう息子みたいに茉子を吊り橋から山道へと誘導した。 「自転車あるから」 「自転車?」 「連れてくから後ろ乗って」 彼はそう言って、アンティークな感じの黄色の自転車に茉子を乗せた。 「人生最後のサイクリングする?しっかりつかまってよ、オバサン!」 「えっ!きゃっ!!」 自転車は勢いよく走り出す。 剥げかけたアスファルトのグレーが白く見えるくらい速く坂道を降りていく。 彼は一度もブレーキを踏まない。 「振り落とされんなよ!」 「ひゃぁぁぁっ!!」 山桜がアスファルトの上を舞う。 黄色い自転車が駆け抜けたあと、波のように花びらが流れる。 彼の見た目は学生みたいだけれど、意外にも背中はガッシリしていて大人の男という感じで、無重力の自転車から振り落とされないように茉子は、その頼もしい背中に頬をくっ付けて叫んでいた。 叫んでも叫んでも、彼は面白そうに笑うばかりで、ちっともスピードを落としてはくれなかった。
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