Reborn

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「ねぇ、オバサン」 「あのさ、そのオバサンってやめない?」 茉子は彼の大きな背中に言った。 彼は肩を揺らして笑い 「だって名前知らないんだもん」 と言った。 「そっか。まだ名前言ってないもんね」 茉子が自分の名前を言おうとすると 「言わなくていいよ、名前」 と、彼が遮った。 「どうして?」 「いつか死んでしまう人の名前なんか知りたくないだろ?」 と、彼はもっともな事をサラリと言ってのけた。 彼の両足は一定のリズムを崩さずに自転車を漕ぎ続ける。 もう山の麓付近なのか、自転車の隣を車が何台も通り過ぎていく。 「じゃあ、君の事はなんて呼んだらいい?」 茉子が聞いた。 彼は黙って漕いでいたが 「オバサンがつけてよ、名前」 と言った。
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