Reborn

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黄色い自転車から2人は降りた。 狭い駐輪場に自転車をねじ込むように停める。 商店街の隅っこにある、その目立たない小さな建物は端から見てすぐに洋食屋だとは分からない風貌だった。 不思議な表情をしている茉子に彼は 「僕も初めは洋食屋なんて気づかなかったんだ。穴場なんだよ」 と、茉子の心を読んだかのように言った。 「いらっしゃい」 店の奥から太った店主が水を持ってきた。 「日替わりって何?」 「カニクリームコロッケとポトフ」 「じゃあ、それ2つ。あとタンシチューひとつ」 「あいよ」 メニュー表を開いていた茉子は馬鹿らしくなって 「自分の好きなものだけで決めちゃって」 とむくれた。 「だって金出すの僕だもん」 と、彼は悪びれもせず水を飲んだ。 「私だって食べたいものがあるのに」 「馬鹿だなぁ、ロジャー。その日一番旨いものが日替わりメニューになってるんだよ?今日の日替わり見てみろよ?カニクリームコロッケだぜ。朝、市場でとれたてのカニを贅沢にもクリームコロッケに仕上げてんだぜ。これを食わずして他に何を食うって言うんだよ?」 真ん丸な目をさらに真ん丸にしてそう言われて、茉子はパタン、とメニュー表を閉じた。 「あなた、詐欺師になれそうなくらい口がまわるのね、ロッキー」 へへッ、と彼はおどけた。
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