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「海に行こうよ」
2人の間の沈黙を破って、そう切り出したのは彼のほうだった。
茉子はあれから何も喋らずに窓際に座って海を眺めていた。
「いいよ」
茉子は帽子とハンドバッグを持って立ち上がった。
露天風呂で言い合いになった事でバツが悪くなったのか、彼も途端に口数が少なくなってしまった。
それでも、茉子は嬉しかった。
大好きな海をまた見れる事が。
黄色い自転車が背の高い草の中を走る。
一本の白い砂利道が続く遥か向こうに青色を湛えた海が少しだけ見えた。
一気に加速する。
「きゃっ」
茉子は飛んでいきそうになる帽子を押さえながら、彼の腰に手を回して瞼を閉じた。
シャッ、シャッ、とタイヤが砂を弾く音がする。
跳ね返った砂粒が、茉子のふくらはぎに当たる。
「うわぁ!!」
彼の声に瞼を開けると、目の前は一面海だった。
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