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「濡れる!濡れる!」
彼が自転車を波打ち際までわざと寄せる。
「タイヤ沈んじゃうよっ!危ないからっ」
笑いながら茉子も叫んだ。
「凄いな~砂地が固まってて、ぜんぜん沈まないや」
彼が感心しながら自転車を停めた。
茉子も自転車から降りる。
彼の言う通り、かかとで蹴っても、砂地は平らでびくともしない。
地元にもあった。車で波打ち際を走れてしまうくらい砂地が固い海岸が。
茉子は幼い日、父と母に連れて行ってもらった海岸を思い出していた。
裸足の指に冷たい波がやって来ては、指の間にへばりついた砂をさらっていった。
「私ね、ロッキー」
「なに?」
「正しいか、正しくないか、じゃないの。正しさなんて人それぞれ違うから」
「うん・・・・」
「ただ、心の一番真ん中のキレイな場所が、他の誰かに搾取されて平気なのは、違うと思う。それだけは、ダメなの」
「・・・・」
「ロッキーの心の真ん中が守れるのは、ロッキーしかいないんだからね」
茉子はまた泣いてしまっていた。
泣きながら、彼の心の真ん中を抱きしめるように、彼を抱きしめた。
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