Reborn

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観光シーズンを外しているからか、大浴場は人っ子1人いなかった。 茉子は安心して服を脱いだ。 もし、沢山人が居たなら、大浴場での入浴は諦めようと思っていたからだ。 それくらい、今の茉子は病的に痩せ細っている。 毎日飲んでいる痛みを止める薬の副作用が"太ること"だなんて、ちゃんちゃら可笑しい。 この得体の知れない病気になって以来、体重は下降の一途を辿っている。 万病に効くと言われているらしいお湯をまだ潮の香りがする身体にゆっくりとかけた。 湯気で鏡が曇る。 足先から、熱いくらいのお湯に包まれて、湯あたりしてしまいそうで、茉子は湯船には長く入れなかった。 あまり温泉を楽しめないまま、脱衣所に戻る。部屋から持ってきた紺地に朝顔柄の浴衣を着て茶色の帯を結ぶ。 クローゼットに並べて置いてあった彼の浴衣は、白地に朝顔柄だったっけ、と茉子はニマニマしそうになる顔を必死に戻した。 きっと彼なら似合う。 女としてじゃない。 馬子にも衣装という母親的なそれだ。 備え付けの風圧の低すぎるドライヤーで髪を乾かすと、化粧水に乳液だけをつけるという質素な顔で部屋に戻った。
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