Reborn

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2人の愛の巣、と呼ぶには先輩のアパートは臭すぎた。 昨夜の甘い雰囲気が、この腐りきった部屋のせいで一掃されてしまった。 「くっさ!!」 もうこの言葉も何十回目だろう。 彼はくたびれた座椅子を持ちあげて外に運んでいる。 「あとはゴミ出しの日に運ぶとして、換気しとけば匂いは何とかなるから」 と、キッチンの小窓から彼が顔を覗かせて言った。 「うん。そうだね」 と、畳を水拭きしていた茉子も手をとめて明け放たれた窓から見える新緑並木を眺めた。 「意外と緑が多いね。夏の匂いがする」 「気にいった?ロジャー」 「うん。とても」 彼が後ろから茉子を抱きしめた。 茉子は何も考えずに彼の胸にもたれる。 明日がどうなるかなんて分からない。 分からないのが人生だ。
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