0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
守れないもの
テレビのニュース番組が終わり、出演者全員が声を張り上げているだけの、人気の娯楽番組が始まった。
どなったり喋り散らしたりしている様子を見て大声で笑う客も映っている。
元気がある時なら一緒に笑えるかもしれない。が、今は腹が空いている。
いつもの惣菜屋で買うはずだった弁当を買いそびれた。
テレビの画面が何やら慌ただしく動き、悲鳴のような歓声が上がった。
見ると、スタジオの天井から格子状のパイプとそこに付いたたくさんの照明器具が舞台と客席を覆うように落ちている光景が映し出されていた。怪我人も出ているようだ。すぐにCMに切り替わった。
鯵フライ1枚だけでも買えばよかった。
腹がぺこぺこだ。
翌日も同じコースで散歩をした。
今日は肉じゃが弁当に、鯵フライを1枚足した。
満腹感を味わえた。
食後には弁当の容器を丁寧に洗う。
臭うのは、奥の部屋に寝ている自分の身体だけでいい。
こんな毎日は、いつまで続けたらいいのか。
あれから何日経ったんだろう。
あの日は、前の夜から酷い頭痛があり、痛み止めも効かずに布団に潜り込んだ。
翌朝目覚めると、痛みは嘘のように無くなり、
体も軽かった。
生活の頼りだったカラオケ店が閉店になるからとクビになり、ハローワークに書類を提出してきた日だった。
起きて顔を洗って布団を畳もうとしたら、まだ
そこに自分が寝ていた。息はしていなかった。
そういえば昨夜、頭痛かったしな。と何故か納得したが、今、顔を洗った自分も、自分だ。
そして、とても腹が空いている。
とりあえず何か食べてから考えようと、コンビニに行って買い物をすると、普通に今まで通りできた。
買ったサンドイッチも咀嚼し、フルーツ牛乳も飲み干した。トイレもした。
生きてんじゃん。ならいいっかな。
死んだ自分はそのまま布団に寝かせておいて、
生きてる自分は生きていこうと決めた。
もしかしたら死んだ自分は幻で、あの酷い頭痛のせいで見えている幻覚かもしれない。
死んだ自分を触ってみる気は起きず、そのままにしておくことにした。
死んだ自分を置いたまま仕事を探す気がしなくて、貯金と雇用保険の給付金で暫く生活をしている。とはいえ、いつかは、あの体と、この体がひとつになって、自分も死ぬんじゃないか、と、不安でもある。なるべく一緒に居ないようにしようと考え、長い散歩を始めた。
それにしても、体が2人分になったせいなのか、
腹が減る、だが、腹が減るからといってその都度腹一杯に食べていては、経済的に立ち行かなくなる。これまでの食生活を変えないようにしよう。1日2食も食べていれば死にはしない。
そのはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!