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バス停を後にして僕は、住宅地の灯りを避けて細い小道を歩いた。 どこからか花の香りがしている。 台所で鍋か何かが鳴らす音がする。 食べたことはないが懐かしい味がしそうな料理のいい匂いもする。 子供が風呂場で今日あったことを話しているのだろう声も、湯船から溢れる湯の音と共に聞こえる。 ミィ 一軒の古屋の玄関の前で、白っぽい猫が鳴いている。 ミィ ミィ ミィ どうやら夕飯時に帰宅して家主に家の中に入れろと鳴いているようだ。 赤い首輪が付いているので、この家の飼い猫らしい。 ガラス戸の向こう側に はいはい、お帰り、とにこにこした年配の女性がドアを開けるかと、立ち止まって様子を見ていたが、なかなかドアが開かない。 それどころか、家の中は暗く留守のようだ。 ミィィミィミィィ 猫は次第に鳴き声を荒げながら戸の下を引っ掻き始める。それに合わせてガラスがガタガタ小刻みに鳴った。 お節介とは知りつつ僕は戸に近づき呼び鈴を押してしまった。 ピンポンピンポンピンポン ひ! この呼び鈴一度押しただけで連続音が出るタイプじゃん。 2階の部屋に明かりがつき、階段を降りてくる足音がした。 あらやだもうこんな時間。うっかり居眠りしちゃったわ。 そんな独り言がだんだん近づき、ガラガラと戸が開く。 はぁい!どなた様? 想像通り小さな年配の女性が顔を出して辺りを見回した。 僕はすぐに敷地から出て垣根越しに様子を見ていたので、彼女には見えなかったようだ。 あら?誰かしら?ん?あらチロちゃんお帰り。ねえ、アンタ呼び鈴鳴らした? ちょっとぉ、そろそろ化け猫になったの? そう言いながらガラガラとと音を立てて戸を閉めた。 猫は彼女の脚に体をこすりつけるようにして、 長い尻尾をゆらりゆらりと振りながら、 中へ入って行った。
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