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ある国に若くて強い王様がいた。
王様は隣の国のお姫様を好きになった。
隣の国は王様の国より小さく弱かった。
王様はすぐに隣の国に使いの兵と、お姫様を乗せるための馬車をやった。
隣の国の王様は泣く泣くお姫様を渡すしかなかった。
お姫様も恐ろしい王様の元へ行くのは嫌だった。
待ち構える馬車を見てますます恐ろしくなり、お姫様は部屋に駆け込んで泣きだした。
そこへ、魔女のおばあさんがやってきた。このおばあさんはいい魔女でお姫様にも優しかった。
「泣くのはおよし。王様のところへ行くのはどうにもしてやれないけど、これを持っていくといいよ」
魔女は大きな宝箱をお姫様に渡した。
宝箱は金や銀にキラキラ光っていて、見たこともない美しさだった。宝箱には鍵穴があり、しっかりと鍵が掛かっていて開かなかった。
「これは不思議な宝箱で、魔法の鍵でなければどうやったって開かないんだよ。王様にこれを開けることができれば結婚しますと言いなさい。王様が姫様のことを愛しているなら開けようとしてくれるだろうし、姫様の心にも王様の心が伝わるはずさ。その時、魔法の鍵が姫様の手のなかに現れるよ」
「王様が私を本当に愛してくださる方なら、結婚しますわ」
お姫様は魔女に礼を言って、宝箱を持って迎えの馬車に乗って王様のお城へ行った。
玉座の前で出迎えた王様に、お姫様は不安に震える心を隠してご挨拶を済ますと、魔女のくれた宝箱を見せた。
お姫様が手にしてから、宝箱はどんどん大きくなり、まばゆいくらい綺麗になっていて馬車から降ろす頃には、兵が何人かで抱えなければならないほど大きく重くなっていた。
「王様にお目にかかったら、お願いしたいこどがありました。聞いてくださいますか?」
お姫様が来てくれたので、王様は上機嫌だった。
「なんでも言ってみるがいい」
「これは魔法の宝箱です。これを開けてくださいますか。開けてくだされば、喜んで結婚いたします」
王様は自信に満ちた態度で言った。
「私を誰だと思っている。たやすいこと。鍵屋を呼べ」
すぐに国一番の鍵屋がやって来た。
お姫様は鍵屋には開けてほしくなくてハラハラした。しかし、どんな鍵や道具を試しても、鍵穴は生き物のように形を変えて鍵屋を翻弄した。
鍵屋はついに手が尽きてうなだれた。
「開きません」
「鍵屋が鍵を開けないでどうする。牢に入れておけ。武器屋を呼べ。開かないなら壊せばよい」
さっそく武器屋がやって来て色々武器を試した。
しかし、宝箱は鉄よりも硬くなってびくともしなかった。
大切な宝箱をガンガンやられるのを見たお姫様は、悲しくなってしくしく泣き出した。
それを見た王様は早く開けねばと自分が武器を振るおうとした。すると、お姫様がますます激しく泣き出したので、武器を振るのをやめにした。
「泣かなくていい。大切な宝箱を壊したりはしないから」
王様が優しく言ったので、お姫様は泣きやんだ。
武器屋も武器が尽きていて手をこまねいた。
「申し訳ありません。開きません」
「お前の武器に頼っていた自分が情けない」
武器屋を牢にぶち込ませて、イライラを鎮めた王様は優しく、そして、少し悲しそうにお姫様に聞いた。
「どうすれば開く?」
姫様には答えられなかった。
「そうだ、魔法の箱だったな。魔法使いを呼べ」
すぐに国一番の魔法使いがやって来て、知っている全ての呪文や魔法を試した。
お姫様は魔女のおばあさんの凄さを知っていたので、ハラハラせずにいられた。思った通り宝箱はなんにも反応しなかった。魔法使いにも、宝箱には自分のよりずっと強力な魔法がかかっているとわかった。
「お許しを。開きません」
「まやかし使いを信じた私がバカだった」
魔法使いも牢にぶち込ませると、王様はもどかしげに両手をもみ合わせた。
「あの手この手を尽くしても開かない。どうすればいい?」
そこで王様は思いついて、お姫様に命じた。
「人に開けさせることはない。そなたが開けろ」
「私には、開けることはできません。あなた様が開けてください」
それで王様はピンときた。
「わかった。私が開けよう。そのために、鍵がほしい。鍵がどこにあるか知らないだろうか」
宝箱はお姫様の心で、自分にしか開けられない。
そのことに王様は気づけたのだった。
お姫様にも王様の心からの願いだとわかって、それに、王様に懸命さと賢明さと優しさもあるのがわかったから、鍵がほしいと思った。
すると、お姫様の右手が急に輝きだして、手のなかに金の鍵が現れた。
お姫様から受け取った鍵を、王様が鍵穴に差し込むと宝箱は簡単に開いた。
中は空っぽだったが、王様はそんなことは気にせず嬉しさでニッコリした。
お姫様も王様に微笑んで言った。
「私は喜んで、あなた様と結婚します」
「私の后になってくれたからには、宝箱を好きな物で満たしてやろう。私にできないことはない。なにが欲しいか言ってごらん」
「ありがとうございます。では、牢に入れられた人達を出してあげてください。そうしてくだされば、宝箱は満たされますわ」
「なんて優しい人だろう。私にはたやすいことだ」
こうして、全員牢屋から出られて、お姫様はお父様とお母様と魔女のおばあさんを呼んで、王様と結婚式をあげた。
優しい王妃といるうちに王様も優しくなった。
それで国はもっと平和になって、王妃の宝箱は一生幸せで満たされていた。
めでたしめでたし
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