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祓魔師の業
「ジクウ…… お前だけは…… 八つ裂きにしてやるぅ…… 」
暗闇の中に2つの赤い光が、爛々と煌めいている。
両手の鈎爪に舌を這わせ、不気味に口元を開いて涎を垂らしていた。
「おいっ。今呼んだか? 」
妖魔は赤い眼を背後に回した。
同時に2間ほど横に飛び、間合いを取った。
「ひひひっ。お前の方から来るとはなぁ。 」
妖魔は周囲を見渡した。
「くくっ。あれが今夜の餌かぁ。 」
「腹減ったぁ。頭は俺にくれ! 」
黒い影が次々に現れた。
「2,3、4,5…… 俺って人気者? 」
「こらっ! 油断するとまた怪我するよ! 」
アシュラがジクウを小突いた。
「イテッ! ボクは暴力が嫌いなんだよぅ。 」
「ふざけるなあああぁぁ!!! 」
怒った妖魔たちが一斉に踊り掛かった!
「さあてっと…… 」
一瞬ジクウが目を閉じると、辺り一帯が光に包まれる!
「オーン アモーガ ヴィジャヤ フゥーン パットォォォォ!!! 聖なる絹と、聖なる網を以て衆生を導く不空羂索観音よ! 金剛界より来たりて彷徨える魂を捕らえたまえ!!! 」
両手で結んだ印が、光の輪に包まれる!
そして、光が徐々に晴れていった……
「おお! 妖魔を捕らえたのだな。まさに一網打尽。いや。お見事。法力とはこうやって使うものなのか。 」
源次は拍手をしながら近づいて行く。
「ダメよ! 私が止めを刺すから下がって!! 」
「ああ。すまん。また邪魔したな。 」
「オーン アグナイェ スヴァーハー!! 炎を統べる地獄のアシュラよ! 火天の業火よ! 我に従い妖魔を焼き尽くせ!! 」
印を中心にして、炎の渦が起こり、妖魔を包んだ!
「ぐぎゃあぁぁぁ!! 」
一瞬で焼き尽くされた妖魔たちは消え去り、また闇が支配した……
「ああぁ。何か、淡白じゃない? もっとこう…… 源次さんが喜ぶような演出をさぁ。せっかく縛ったんだしさぁ。 」
「もう! 真面目にやりなさい! 」
こうして、源次は妖魔との戦いに足を踏み入れて行くことになる。
だがこれは戦い前夜の、ほんの一時の馴れ合いだった。
了
この物語はフィクションです。
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