君の柔らかなほほえみにそっと。

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持木(もてぎ) 命杜(めいず)、答えを書け〜」 「あ、はい」 まじか、僕当てられたよ…。僕は当てられる予感もなくて、少しばかり戸惑った。この数学の答えを書くまでの僕はまだ先が分からなかった。 この時までは僕は周りに思われているであろう優等生的な立場をイメージを崩したくはなかったんだ……。 「できました、先生」 僕は先生にそう言って、席へと戻ろうとした。すると、強い視線を感じた。視線の先には明瀬 《あかせ》乃々花(ののか)だった。 (なんなんだ…。乃々花のやつ。僕をじっと見てきて……) 僕はなんだか不快な気持ちになった。 𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒 𓈒◌𓐍𓈒◌𓂃 「ギャハハ!あの命杜があんな問題を間違えるとは思わなかったぜ。よしよし」 「な、なんだよ!何回も言わなくてもいいだろ!七聖(ななせ)。この僕が間違えるとは僕でも思わなかったんだぞ!」 僕の友人である、白浜(しらはま) 七聖(ななせ)が椅子に大きく股を広げて大きく爆笑をする。僕は当てられてミスしたことをぶり返すように言われるのが嫌だった。大切な友人だとしてもこれは耐えられない。 「まぁまぁ、命杜。しょうがないよな。そういう時もある、ある」 と言って座っている僕の右肩をポンポンするのは空平(そらひら) 雅陽(みやび)だ。 「大丈夫だよ!命杜。そんな命杜もかわいいから。よしよししてあげるね」 「こ……の、お前ら、この僕を慰めるとはどういう事だよ!」 なんなんだ、この状況は……。幼なじみの笹野 美紗まで僕にそんなこと言って。この僕がまるで泣きじゃくるガキをあやす様に言いやがって!僕はキレた。 「まぁ、これならもう交代だな」 「こう、たい?」 「そうだな、交代だ。学年一位の座は姫に渡そうな」 僕は七聖と雅陽が言っていることを理解することができなかった。僕が学年一位だろ。座は誰にも渡さない、てか、姫ってなんだよ!2位って女子なのか……。 ・ 「数学が得意な学年一位の持木くんが問題を間違えた!それ本当なの!それじゃあ、次のテストの学年一位はこの私、桐宮 はなだわ!」 「はな様すごいです!はな様を近くで見ていて良かったです!頭も良くてスタイルも良い、学年二位だなんて!」 「麗しき、憧れの女王様〜!」 と今日も周りに女子をかき集める、桐宮 はながいた。はなの横ではなをたてている、小ノ島 《このしま》由希(ゆき)がいた。 「うふふ、そうよ。学年二位は私よ、完璧でしょ」 はなはどこか意味深な笑みを浮かべ、ニヤリとほくそ笑んだ。 𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒 𓈒◌𓐍𓈒◌𓂃 ―――体育の時間。 あの、命杜くんが間違えるなんて。私は数学が大得意な命杜くんが当てられた問題の答えをミスしたことが気になってしょうがなかった。 私が命杜くんを手助けすることができたらいいのにな。でも、命杜くんには美紗ちゃんがいるし……。私が入る隙は…、どこにもない。 私は今日も命杜くんのことを考えた。 私がこんなにも命杜くんを想うようになったのはあの時がきっかけ…。でも、覚えてるかな、命杜くん。 「乃々花ちゃんはすごいね。僕にも教えてほしいな!どうやってするの?」 「め……いずくん」 興味津々にキラキラとした目で素直に私の問題の解き方を聞いてくる命杜くんがとてもかわいくて、素敵だった。でも、私が取り柄を隠すようになっていったら、どんどんと命杜くんと離れてしまった。 あ、私は持っていたボールごと一緒に前に転けてしまった。いや、正確には転ばされた。そう後ろから誰かしらに押された。私は怖がりながらも後ろを見た。そこにはクラス一の女王である桐宮 はなだった。 「邪魔よ。なんの取り柄もない乃々花なんて!」 「そうね、邪魔よ!乃々花〜」 はなと声合わせて言うのは由希。私は嫌な気持ちでそそくさと逃げた。 すると、遠くでじっと立ってこっちを見ていた男の子がいた。それは命杜くんだった。 「命杜くん………」 私はトクトクと心の高鳴りを感じた。この気持ちは淡い期待…。 過去の小さい頃に出会った、あの時にはまだ続きがある。また、あの時の言葉が聞きたい。確認したい…。 「乃々花ちゃん大丈夫?」 私はハッと我に返って、振り返ると心配そうに私を見る、美紗ちゃんがいた。私は少しばかり落胆した。 𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒 𓈒◌𓐍𓈒◌𓂃 「なぁ、乃々花かがさ、僕をすごく見てくるんだけど、なんだと思う?」 「……。命杜も見てるだろ〜」 七聖はそう応えて、僕の首肩に腕を乗っけてきた。 「命杜はなんで見てるんだよ?」 「いや、なんか、遠くから見ると小さい頃に会った天才の女の子みたいだから。僕の間違いだろうけど」 「そうだなー、命杜はそこも間違えているよ」 横を歩く雅陽はどこか澄ました顔で言う。そこもってなんだよ。 𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒 𓈒◌𓐍𓈒◌𓂃 ―――テスト開始 カキカキッと生徒たちのシャーペンの音が教室の中に響く。 みんな真剣だな。私、今回は本当の実力出してみようかな。また引かれたら嫌だな。でも、大丈夫。今年のクラスは命杜くんと同じなの。命杜くんに思い出させるチャンスなの。 私は無我夢中にテストを受けた。 ・ ―――テスト結果 「今回のテストはとんでもない記録を出した者がいる」 とんでもない結果だって!? 僕は今回のテストもドキドキと病まない心で先生の話しを聞く。 「国語…クラス一位は明瀬 乃々花。理科クラス一位は明瀬乃々花。社会クラス一位は明瀬乃々花。そして、数学クラス一位は………」 クラス一位明瀬乃々花ばかりじゃないか!どういう事だよ! 「明瀬乃々花だ。そして、学年一位は明瀬乃々花だ。この結果を公に言ってもいいと了承を得て伝えた。皆、明瀬 乃々花を見習うように。そして、そんな明瀬 乃々花を理解するように。先生からは以上だ…」 は………。どういう事だよ!大得意の数学まで学年一位の座を乃々花に取られるなんて。理解するようにって、理解できない。全科目も乃々花なんて…。 ・ 「おい、乃々花……。お前、何した?カンニングでもした?」 「命杜くん、していないよ」 「じゃあ、なんで……」 私は険しい顔で問いてくる命杜くんに応える。 「そうよ!乃々花!あんた私のをカンニングしたに決まってるわー!」 「私は…そんなこと、し、しません!」 私は女王であるはなの奮起した強い言葉にも反論した。 「この!その才能隠せって!言ったでしょ!今さら見せつけてこないでくれるかしら!」 とはなは私を叩くように手のひらを向けて私に走ってきた。私は目を閉じた。 「捕まえた!はな、お前は学年二位でもなかっただろ!乃々花さんに手を出すな!」 と七聖がはなの腕を掴んだ。 「いい加減、命杜気づけよ。命杜の初恋の相手をな」 と雅陽は文句言いたげな顔で言う。 「初恋の相手……。どういう事だよ…」 「命杜くん、もうかわいいってだけでは応援できないから。ちゃんと自覚しなさい」 と美紗が親のように言う。 「え、じゃあ、小さい頃に会った天才の子は乃々花?」 命杜くんは困惑した様子で言う。 「命杜くん……、思い出してくれた?」 「乃々花……」 𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒 𓈒◌𓐍𓈒◌𓂃 「乃々花、また教えてほしい。それと僕も教えるからさ」 「命杜くんありがとう」 「乃々花、好きだ」 命杜くんは初めて会った時の会話のように素直に会話してくれる。そして、柔らかな笑顔を向けてくれる。命杜くんがずっと好き。 乃々花はあの時のように柔らかな笑顔で応えてくれる。僕はそんな乃々花の頬をそっと撫でるんだ。ずっと好きだ。 end
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