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稲本団地四街区F棟・駐輪場
また、来てるな……
鬼多見悠輝は駐輪場にMTBを止めながら、深夜の闇に包まれた集合住宅を見上げた。すると白い影が五階のベランダから素早く飛び降りて、庇伝いに逃げていく。その正体は猫だ。
あいつ、朱理たちの部屋の前にいたな。
白猫が居たのは稲本団地四街区F棟の五階、悠輝の姉家族が住んでいる部屋のベランダだ。猫は窓から中を覗いていた、そこに居るのは姪の真藤朱理と紫織、二人の姉妹だ。灯りも漏れていいないし、この時間は二人とも寝ているだろう。しかし、朱理は部屋にネコちゃんが来るようになったと以前喜んで話していた、眼を覚ましているのかも知れない。
何とかしないとな。
あの白猫は悠輝が戻って来ると直ぐに逃げていく。彼が敵意を持っていることを察しているのだろう。そして悠輝が白猫に敵意を抱くのには理由がある。あの猫が姪達にとって危険な存在だからだ。
それにしてもアレは何だ?
魔物でも思念体でもない。肉体はあるが、当然、普通の猫とも違う……
異能力を持つ猫というところか。人間以外でここまで強力な異能力を持つ存在が居るとは思わなかった。だがそれは大した問題ではない。悠輝が心配すべきことは、異能力を持つ猫が朱理と紫織の処に何度も来ているということだ。
偶然、じゃないよな。
姪は二人とも潜在的に異能力を持っている。今のところ覚醒していないので普通の子供と変わらない。悠輝はこのまま彼女たちが覚醒しないことを願っており、その切っ掛けとなることを排除しようとしている。
あの猫は朱理と紫織の潜在験力に惹かれて来てるのか?
鬼多見家では異能力のことを『験力』と呼んでいる。因みに悠輝は自身が験力を使う異能者なのに、霊や神などの存在を信じていない。そのため一般的に『霊』と言われる存在については『思念体』や『残留思念』などとSFチックに呼んでいる。一方、『魔物』と鬼多見家で呼ばれる存在は、『思念体』とは異なるが、気に入ったネーミングがないのでそのまま『魔物』と呼んでいた。
故意に朱理と紫織の部屋を覗いているなら、その目的は何だ?
どちらにしろ放って置いて良いことではない。本来なら悠輝の姉であり姪達の母である遙香に相談すべき内容だが、彼女はオカルトや異能力がらみの話を取分け嫌う。彼女自身、悠輝を遥かに上回る験力を持っていたが、現在は封印して普通の専業主婦として生活している。
とにかく、あの猫を近づけないようにしないとな……
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