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稲本団地四街区F棟・駐輪場
「ウゥウゥ~」
いつも使っている駐輪場に近づくと子犬が唸りだした。悠輝は胸騒ぎを覚え、急いでMTBを駐めて集合住宅に駆け寄り、姪達の部屋があるベランダを見上げる。しかし、そこに白猫の気配は無い。
「ウゥウゥ~」
子犬はまだ唸り続けている。しかも、彼はベランダではなく集合住宅の前を通る道の先を見詰めていた。
朱理と紫織は部屋にいるのか?
確かめたいが今は午前二時過ぎだ。姉の部屋のスペアキーを持ってはいるが流石にこの時間には入れない。姉に白猫のことを話せば確実に揉めるし、そもそも義兄には験力のことを秘密にしている。
なら部屋に入らずに確認するまでだ。
悠輝は建物のすぐ側まで近づくと、精神を研ぎ澄まして姪達の気配を探った。この距離ならギリギリ察知できるはずだ。
案の定、直ぐに部屋で眠る遙香と英明、そして紫織の気配を見つけた。
朱理はどこだ?
更に意識を集中し朱理の気配を探すがまったく感じ取ることが出来ない。
「ウゥ~」
不満げに子犬が唸る。
「朱理が連れて行かれたのか?」
「ガウ」
そうだ、と言わんばかりに子犬が吠えた。しかし、先程拾ったばかりの子犬の反応を当てにして良いのだろうか。
「わかった、頼りにしてるぞ」
他に頼れるものはない。悠輝は子犬の導きを信じることに決め、闇の中を駆け出した。
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