レタス懐妊

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 お腹に宿った新たな命は、レタスだった。  妊婦検診のエコーで白黒の画面に映ったちっちゃな球体は、私には最初なにか分からなかった。人間なのか、くるみなのか。ハムスターなのか、饅頭なのか。  しかし専門家である医師にはお見通しだった。小学四年生の算数を小学六年生が解くくらいには簡単だったようだ。ぬるい透明なジェルを私のまだ平べったいお腹に塗りつけ、その上をプローブを何度か往復させ、時には一か所を集中的に観察し、ぐいぐいと力を込め。そして淡々と告げたのだ。「おめでとうございます。レタスです」と。 「レタスですか」 「はい。レタスです」 「キャベツではなく?」 「レタスです。玉レタスです」  家に帰り、妹に懐妊を打ち明けたところ、妹は「そんなのどっちだっていいじゃん」と私の揺らめく心境を切り捨てた。  その「どっちだっていいじゃん」の意味は「レタスでもキャベツでもいいじゃん」なのか、それとも「妊娠そのものが尊いことなのだから何を身ごもろうがいいじゃん」なのか、私には量りかねた。だから口をつぐんだ。
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