ドールズ

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ドールズ

 ルームシェア相手のキョウちゃんとは入学式で出会った。憧れて入った美大、期待に胸を膨らます私の隣の席だった。  痴漢撃退も兼ねたピンヒールを履いて身長を10㎝上乗せした私が見上げるほど背が高いのに、シャツから伸びた腕も鎖骨も、体の輪郭がとにかく細かった。アッシュグレーの髪が目元を隠している。  男か女か分からなかった。 「そのワンピース可愛いね。お人形みたい」  不躾にじろじろ眺めていたのに、非難されるどころか褒められた。確かにその日は体のラインが隠れるAラインの赤いワンピースに亜麻色の髪を腰まで下ろして、ドーリィに仕上げていた。 「ありがとうございま……」  お世辞だろうけど、と見上げて驚いた。透き通った肌に瑠璃色の瞳、ツンと高い鼻にさくらんぼ色の唇。磁器人形(ビスクドール)がいた。 「……むしろあなたのほうがお人形さんみたいですが」  内臓の収納スペースを無視したマネキンみたいに薄い体を少し傾け、きょとんとされた。 「松 慶一郎(まつ きょういちろう)。キョウって呼んで」  洋服だけドーリィな自分が見窄らしいほど、完璧なお人形さんが微笑む。フルネームから男だと理解するのに何秒もかかかった。 「お名前は?」 「は――、(はら)です」 「バーバラ?」 「原です!」 「確かバーバラって愛称だとバービーなんだよね。宜しくね、バービーちゃん」  否定もむなしく、その日から私は“バービーちゃん”になった。
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