阿部佑麻、21歳の焦燥。

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阿部佑麻、21歳の焦燥。

 2020年4月、オンラインの親戚の集まりを開始30分で中座した。成人していてよかった。気分が悪くなったのをお酒のせいにできるから。  普段は紹興酒のような強いお酒を飲んでも酔わない。阿倍家はお酒に強い家系のようだ。そんな俺が、今日カシオレ1杯飲んだだけで吐いた。居場所のない息苦しさが俺の内臓を握りつぶした。  スマホでSNSを開いて、鍵アカウントで「つらい」とつぶやいた。タイムラインには偽善者たちが、忌まわしい伝染病に青春を奪われた子どもたちに言及していた。 「甲子園中止なんてかわいそう」 「娘の修学旅行がなくなりました。一生に一度のことなのに」 「吹奏楽のコンクールが中止です。死にたい」 「インターハイやってよ。今年じゃないとだめなんだよ」  思わずスマホを投げた。叫び出したくなった。フローリングにスマホが大きく衝突した音で我に返った。よかった。画面は割れていない。パンデミック化でスマホを壊したりしたら、修理に店舗に行くだけでも不要不急だなんだと後ろ指を指されてしまう。  競技かるたの大学対抗戦が中止になった。俺の所属するかるたサークルを含め、すべてのサークルの活動は大学の指示で全面禁止になった。対外試合、練習を禁止された体育会員がオンラインで署名を集めただとか集めようとしただとかが数ヶ月前に噂になった。練習試合が中止になった体育会には応援や道場のメッセージが送られたが、同じように試合が中止になった俺たちに、世界は見向きもしなかった。  同期の会長がサークルの全体グループSNSに「活動中止です。ごめんなさい」と連絡を入れて以来、彼は憔悴した。彼が謝る必要なんてなかった。彼が一番、苦しかったはずなのに。
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