阿部佑麻、41歳の青春。

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阿部佑麻、41歳の青春。

 2040年。俺と雅人はとある旅館を貸し切っている。受付に次々と、同年代の男女が集まってくる。  俺達は大学生の頃、新型感染症に青春を奪われた。世界は俺達を見捨てた。中高生に同情が集まって、マイナー競技に興じる俺達は切り捨てられた。新型感染症はやがて終息したけれど、失われた青春は戻らない。  あの春、雅人と俺は就活をしなかった。2人で起業した。こんなひどい世の中を変えるためには既存の会社の歯車になるより、起業する方が良いと思った。  会社が軌道に乗るまでに時間が掛かった。しかし、社会的には成功と言っていいだろう。ここまで来るのに20年掛かってしまった。 「阿部君、久しぶり!今日は招待してくれてありがとう!」 「こちらこそ、来てくれてありがとう。今日は楽しんでくれよ」 大学時代、ライバル校のかるたサークルのエースで俺の永遠のライバルだった男に声をかけられた。今日ここには20年前、パンデミックによって青春を奪われた当時の大学生かるた部員たちによる「出身大学対抗かるた大会」が行われる。  俺と雅人は、会社の収益の一部を使って「青春基金」を設立した。青春基金は、あの頃俺達と同じように青春を奪われて救済されなかった人達にもう一度あのキラキラした時間を返すためのプロジェクトに使われる。同じ痛みを知る者にしかできないこと。一人でも多くの、あの日泣いていた名も知らぬ大学生だった誰かに手を差し伸べられたらと思う。  その始まりの1ページとして、青春基金を使って、かるた大会を開催した。今日だけは、俺達は大学生だ。  雅人に声をかけられる。 「ほら、佑麻。早くしないと、試合始まっちゃうよ」 「えっ、俺も出て良いのか」 「主催は僕だけの名義にしてあるからね。楽しんで来なよ。その代わり、来週のボードゲーム大会では僕の代わりにきっちり働いてもらうよ」 「ありがとな、雅人!行ってきます!」  俺は20年前に大学の名を背負ってともに戦った仲間の元へ駆けだした。あの日青春を奪われた全ての人が、その人にとっての三笠の山に帰れますように。そう願って。  今日の月はきっと、青春の日々に見上げた月と同じ月だ。
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