山居と元季

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

山居と元季

 山居(やまい)元季(げんき)は幼馴染だ。いつだって、何をするのだって一緒だった。それはどちらかに彼女ができても変わらなかったし、変えるつもりもない。誰が何と言おうと、二人でばかばかしい話をしているのが一番楽しいと思っている。一部の人は、山居と元季の関係を色っぽいものだと怪しんだりするけれど、それはまったく違う。何と例えるのがよいものかと、本人たちも迷うほど、非常に「親しい」関係なのだ――。    物の――特に漫画本の多い山居の自室で、元季が携帯のアプリゲームをしながら寛いでいる。しかも、わりと大音量、鼻にかかるような甘ったるい女の子キャラの声が、同じ高校に上がったばかりの思春期の男が二人いる部屋に響く。この声ええよな、と元季がニヤつき、山居もノールックで同意する。二人とも似たような好みや性格なので、きっかけさえあれば、ニヤつくタイミングはほとんど同じだ。だからこそ、ここまで親しくなったともいえる。  同じように携帯電話をいじっていた山居が、ちらりと元季を見る。  走るとなると、逃げるときの草食動物並に速い元季の脚は前に投げ出されており、首と背中の一部は壁にくっつけている。その体勢は辛いんじゃないだろうかと毎回のように山居はそう思うが、指摘はしない。元季本人が言わないし、辛くはないのだとわかっているためだ。   「よっしゃ、ガチャ引ける! オレの代わりに画面タップしてくれ!」  元季が突然、体勢を正座に変えて、携帯の画面を山居に見せてくる。このゲーム内で使えるキャラクターが当たる、ガチャという名のクジのようなコンテンツの画面だ。  携帯をいじっていただけの山居は、急な出来事にぱちぱちと目を瞬かせる。  元季はこのアプリゲームに夢中で、絶対に当てたいお目当てのキャラがいるらしい。実は山居がこうしてこのガチャ画面を見せられるのは初めてではない。以前、このゲームのガチャで元季は発狂することがあった。何度引いても、お目当てのキャラが出なかったのだ。当時は中学三年、本当なら受験勉強をすべきなのでゲームなどしている暇はないし、簡単に課金できるわけでもない。そこでなぜか、元季は最後の希望を込めたガチャを引くためのアイテムを山居に託したのだ。そのときのほとんど絶望した元季の顔を、山居は忘れない。  ――当たらんかったら、がっかりするやろな……。  山居は唯一無二の、ばかばかしい話ができる幼馴染のために、念を込めてガチャ画面をタップした。すると、どうだろう。元季が求めるキャラが一発で当たったのだ。スポーツ観戦している観客ぐらいの声で元季が叫んだことも、忘れられない。そのときのキャラこそが、「この声ええよな」と元季がニヤついたキャラだった――。 「また俺が引くん?」と苦笑する山居の鼻先に、元季は「頼む!」と半分押し付けるようにして、画面を持ってくる。 「山ちゃん運いいやろ」  キラキラした目、まさに期待している目で見つめられ、山居は内心、荷が重いなとは思いながらも、ガチャ画面をタップした。山居が結果を見る前に、元季が画面を自分の顔の方に裏返す。どうやら、ガチャ結果は自分で見たいらしい。  画面を確認した元季の目から、輝きが失せていく。目当てのキャラが当たらなかったのだと、すぐにわかった。 「オレの宝石がぁあ……」  宝石というのはガチャを引くためのアイテムのことだ。前に聞いたが、現在のイベントが来るという知らせが入った瞬間から、コツコツと貯めていたようだった。頭を抱えた幼馴染を見ると、山居は罪悪感を覚える。でも、謝るのも違う気がして、どのように振舞えばいいか迷う。  ――結局、そこから元季はすっかりしょぼくれて、口数も少なくなった。山居もつられてしまった。見た感じ、落ち込んでいる様子で、怒っているわけではなさそうだったが、そろそろ帰ると言ったときは少し、ほっとした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!