体調不良らしいです

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体調不良らしいです

 翌日、登校前に携帯電話のメッセージを確認してみると、二分前に届いた元季からのメッセージが一件、入っていることを知った。内容はこうだ。  体調悪いわ――山居は思わず「え」と零す。あの健康自慢の元季が体調不良なんて。昨日のことはあるけれど、今日はそんなことも忘れて一緒にバカ話ができると思っていたのに。  すぐに「まじ?」と返信する。そうすると「まじですよ」と宇宙人の絵文字付きで返って来る。よかった、宇宙人の絵文字はいつも通りなので、緊急事態というわけではないらしい。安堵して「了解」と書いた文章を送り、家を出る。学校には携帯電話は持っていけないので、自宅に置いておいた。  元季とは違うクラスだ。だから、別に元季がいないからといって苦労はしない。むしろ、新しい友人を作ることにみんな必死なので、そこに加わることに苦労した。学校が終わる頃にはヘロヘロで、上級生は絶対にしない、あまりにもきっちりした着方の制服ですら、よれているように感じられた。  帰路につきながら、ふと空腹感を覚える。それに気づいたが最後、山居はコンビニの方へと歩みを進めていた。  本来、寄り道は校則で禁止されているけれど、成長期の食欲は大きく強い。敵うものは眠気くらいじゃないだろうか。少なくとも、山居の場合はそうだ。ただ、制服姿で、それもひと目で一年生だとわかるような着方なので、もし同じ学校の上級生が見ていたら後が面倒になる。同じ学校の人間さえ見ていなければ問題ないため、校章の部分を握って隠し、あえて首をすぼめて歩く。ヘンテコだろうが、とりあえずコンビニに入る。きょろきょろと見渡し、店内に同じ学校の人間がいないか確かめてから、ヘンテコな恰好を解除する。  山居が真っ先に向かうのはレジ横のホットスナックコーナーだ。 「いらっしゃいませー」 「あ、ああ、ハハ……」  店員が愛想よく挨拶してくれたけれど、若い女性だったので途端に恥ずかしくなってしまう。ああ、こういうときに元季がいたら……。一緒にニヤついてくれたかもしれないのに。ひとりとなったら、ニヤつくどころか照れる始末だ。ホットスナックに向かいかけた山居の足は謎のターンを決めて、必要のないコピー機の前まで辿り着いていた。    ――何やってんねん! 情けない自分に突っ込みを入れつつ、溜め息を吐く。そのとき不意に、店内放送が流れだした。聞き覚えのあるゲームのようなBGMも一緒に流れている気がする。 「まだゲームをプレイしたことのない新しいフレンドと、ガチャを引こう! 今なら招待ボーナスで、10連ガチャが無料だよっ――」  この声……と、山居が思い出す。そうだ、この声は、いや、このキャラは――元季のお気に入りのゲームのキャラだ。間違いない、山居はこの女の子キャラの声を散々、元季の携帯から発されるのを聞いている。店内放送で流れるコマーシャルに使われるくらいだから、よほど強くて人気のキャラなのだろう。正直、このキャラの声はイイとは思ったが、ゲーム自体に惹かれたことはなかったので、山居は価値を知らなかった。きっと、元季が欲しがったキャラにも、同じくらいの価値はあるのだ。そう気づいたときには、山居は何も買わずにコンビニを飛び出し、自宅まで走り出していた。
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