プロローグ

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プロローグ

七月七日。世間は七夕だと浮足立つこの季節。お祭りや花火に人々が夢中になるこの季節に、例に漏れず私も心をざわつかせていた。 理由はただ一つ。今日は私の人生の中でも、とても大きな分岐点になるかもしれない日だから。かもしれないと言うのは、それが上手くいかない可能性も残念ながら否定できないのだ。 はっきりと言おう。 私は今日、想いを伝える。 つまりは告白だ。 相手は戸田星一(とだせいいち)。私よりも二つ年上で、顔は凛々しく体つきは逞しいといういわゆる体育会系の男性だ。大学野球ではベスト8にまでのぼりつめたことがあるというその体格は、見ていて非常に頼もしい。 そんな屈強な体格とは打って変わって、性格はとても温厚で誰に対しても優しく接することのできる人なのだ。虫さえも殺すことができないんだ、と自分で恥ずかしげに語っていたこともある。そんなギャップに私の心は完全に奪われてしまったのだ。 彼と出会ったのは3か月前のこと。とあるイベントで出会って意気投合し連絡先を交換したのが始まりだった。そこから何回か食事に誘われて、二週間に一回は二人で会うようになった。最初は特に相手のことを異性として意識していなかった私だが、彼と話して、その柔らかな人格に触れるにつれ、どんどんその魅力に惹きつけられていった。何より、彼との会話は時間を忘れてしまうほどに楽しかった。 一緒にいて楽しい存在というのは、異性の中ではこれが本当に初めてのことかもしれない。恋愛下手な私はいつも失敗ばかりで、外見やその口先に騙されて相手の本質を見抜けずに深い関係になってしまったことが何度もある。特に、外見という点では本当に痛い経験をしたこともある。 それだけに、私の中で戸田星一という存在は今までの男性とは全く異なったものを持っていると直感した。もちろん、他の男性のことも初めは優しい人だなと思っていた。しかしそれはかりそめ、偽りの優しさに過ぎなかった。そういう仮面を被っている人間というのは、どこかでボロが出るものだ。しかし、彼の相手のことをどこまでも気遣える優しい言動には、本当に噓偽りが含まれていないように感じられるのだ。
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