01

1/5
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

01

「ほんと、佳苗ちゃんがそこまでデキるなんて、思ってもみなかったんだけど」 夢奈はにやつきながらパチパチと手を叩く。 「なにそれ、嫌味にしか聞こえないんですけど」 私はふくれてみせる。 「だって、あの佳苗ちゃんがだよ。今までも散々やらかしてきたあの佳苗ちゃんがさ、あんないい感じの男の人と付き合うなんて、もしかして、大嵐でも来るのかな?」 「そんな大げさなことじゃないって、もう」 「うーわ、何照れてんの」 夢奈はつまらなさそうに呟いた。 この『怪談相談所』ではこうしたふざけ合いが、頻繁に行われている。 ことの始まりは、夢奈の言葉だった。私はネットで小説を細々と投稿しているのだが、全く閲覧数もつかない、まさに一銭の得にもならない趣味だった。ファンタジーを書いても、本格的なミステリーを書いてもダメ。 そんな時に出会ったのが夢奈だった。血の繋がりはなかったが、彼女は色々あって昔からよく遊んで懐いていた私のところへ転がり込んだのだ。私は子供は嫌いではなかったし、何より夢奈は一緒にいて何だか楽しかった。 そんな彼女が好きなのが、ホラーだったのだ。彼女は私が小説を書いているんだという話をすると、半ば強制的にホラーを書かされた。しかし、私が苦心して書いたホラーは納得してもらえず、作り物ではなく本物を集めようという話になり、そして怪談蒐集のために『ホラー好き少女と三流小説家による怪談相談所』を開いたという顛末だ。ここでは、相談者の話を聞き、夢奈が必要に応じてアドバイスをしたり現地に赴いたりするという形になっている。 今日は7月14日。あの日から既に一週間が経過していた。夢奈にはあの日の出来事を全て話し、私たちがそういう関係になったことを伝えていた。以前までは相手が小学生ということもあって、いちいち私の恋愛のことについて伝えるようなことはしていなかったが、とある事件で痛い目を見て、一切の隠し事を彼女にはしないでおこうと決めていたのだ。 「あーあ、私もそろそろ彼氏欲しいなぁ」 夢奈はソファに座って彼女の大好物である『ペロちゃんキャンディー』を頬張りながら、そうぼやいた。 「夢ちゃんにはまだまだ早いって」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!