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「てかさ、風邪薬ない?なんか喉痛いんだけど」 夢奈はペロちゃんを片手に尋ねる。 「えっ、大丈夫?いつから痛いの?」 「朝から。なんかイガイガした感じがする」 「ほんと?っていうか喉が痛いんなら、どうしてペロちゃんを舐めてるのよ」 「良くなるかなーと思ってさ」 「そんな訳ないでしょ。余計に炎症を起こすだけ。だから今日はペロちゃんはやめて、風邪薬をしっかり飲んで」 「えーっ、そんなぁ…ゴホッゴホッ」 言いかけて、夢奈は激しく咳きこむ。少し痰が絡んだような感じだ。 「ほら、咳もしてるじゃない。早く風邪薬飲んだ方が良いよ、それ。探してくるから、ちょっと待ってて」 私はリビングを出て、台所に向かおうとした。 その時、ピンポーンと軽快にチャイムが鳴り響いた。 おそらく客が来たのだろう。 私は慌てて事務所の玄関扉を開けた。 「あら、お客さん…?」 思わずそう尋ねてしまったのは、相手が小学生くらいの男の子だったからだ。 「うん…」 うつむきがちに少年は応える。 「名前は何て言うのかな?何年生?」 「澤田正弥(さわだまさや)…小学五年生」 「そっか、正弥くんね。とにかく上がって。何か話があるからここに来たんでしょ?」 「うん」 正弥はどこまでもぎこちなく応じる。そのぎこちなさは、子供特有の恥ずかしがり、人見知りというよりも何かに怯えてきってしまっているような印象だった。 「それで、今日はここにどんな用事で来てくれたの?」 ソファに座る正弥と夢奈にお茶を運びながら、相手を委縮させないように柔らかい調子で尋ねる。 「それが…その…村の人達が、みんなおかしくなっちゃったんだ」 「どういうこと?」 「だからね、村の人達がみんなおかしくなって、みんなダメになったの」 少年の話は支離滅裂としていて、まるで要領を得ない。 「正弥くん、一回落ち着いて。ゆっくり最初から説明してもらえる?」 少年は、わかったと大きく息を吸い込んだ。
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