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私と夢奈は固唾を呑んで少年の語りに耳を傾けていた。 「ね、ねぇ夢ちゃん、これって…」 私はおそるおそる尋ねる。夢奈はゴホゴホと咳をしてから、 「うん。アレだよね。映画とかでよく見る、アレ」 さすがの夢奈も半信半疑といった様子だ。 それも無理はない。私たちが少年の話を聞き、想像しているのは、映画でしか見たことがないような存在だからだ。もちろん私も、こんな風変りな相談所にいるからには、ある程度心霊の存在は受け入れているし、実際に化け物じみたものと出会ってしまったこともある。 しかし、はあまりにも非現実すぎるというか、現実からあまりにも飛躍しすぎているような… 「僕、実は本で読んだことがあるんだ。目が赤く光って牙がにゅうっと突き出た人に嚙まれたら、自分も同じような姿になって、血が欲しくてたまらなくなるって。になってしまうんだって」 少年はどこまでも真剣に訴え続ける。 彼の先ほどの語りの中には、噓偽りは含まれていなかったように思える。つまり、この少年の言っていること、体験したことは事実であり、もしそれが事実ならば、それこそ吸血鬼が現れたとしか考えようがない。 吸血鬼といえば、人の生き血を吸う恐ろしい伝説上、創作上の生き物。人の生き血を吸うという発想自体は古代の東欧にまで遡るが、それが『吸血鬼』として顕在化したのは19世紀のジョンポリドリによる散文小説からで、貴族で詩人のバイロン卿をモデルにしたと言われる吸血鬼像は、多くの人々に鮮烈なイメージを焼き付けた。これにさらに東欧の『ヴァンパイア』伝説を合体させて、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』が生まれたのだ。ストーカーの作品はもはや定番の恐怖小説となり、人々に『吸血鬼』のイメージを確立させることとなったのだ。 この少年の話が本当ならば、そんな創作上の怪物が現代に出現したことになるのだから、さすがにすべてを受け入れてしまうのには抵抗感があった。 「とりあえず、行くしかないよね」 夢奈は特に話の内容を深堀りすることはなく、冷静に言った。
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