PENTAGONの夜に

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「あ、そっか。これ、現在完了形だから過去分詞に直すんだ」 前田(まえだ)が頭を抱える。 「そうそう。have+過去分詞ね」 (さとし)がドヤ顔で前田のノートを覗き込む。 「『私はまだ仕事を終えてません』だから、否定形。I haven‘t finished my work ……?」 前田が大きな目で智を見つめる。 「“まだ“だから?」 「yet!」 「正解! 」 智の声に前田が微笑む。 ―――めっちゃカワイイ。天使だろこれ。 和也(かずや)は笑顔と共に揺れるボブ頭を見て、目を細めた。 「つまりはぁ、アイハブンフィニッシュドマイワーキエッ!」 前田の可愛い笑顔を見ていると智の胡散臭い発音も癪に障ることなく受け流せた。 ―――今日ばっかりは兄貴に感謝だな。 いつもはズカズカと部屋に入り、勝手にベッドに寝転がっては何かと絡んできて、基本的には馬鹿にしてから自室に帰っていく兄を見ながら、和也は小さくガッツポーズをとった。 事の発端は、放課後、吹雪が収まるのを待っていた教室で、兄弟の話になったことだった。 「俺、兄貴いるよ。しかも東北大」 その言葉に、異様に反応したのが、 「めっちゃ頭いいじゃん!すごー!」 チアリーダー部を引退したばかりで体力を持ち余している元気のいい大島(おおしま)。 そして、 「勉強教えてもらえていいなぁ」 その大島と仲のいい前田だった。 ―――誰があんな奴に。 心の中で毒づきながらも、興味を持ってくれた前田を意識しながらわざとらしくのびをする。 「まあ、今の時期だけは助かるかな。そろそろ入学願書提出の時期だし?本腰入れなきゃでしょ」 本腰どころか鉛筆を握らない日さえあるのに、一丁前にそんなことを言ってみる。 「だよねぇ」 眉毛をハの字に下げて困った顔をした前田を見つめた。 彼女とは―――100%同じ高校には入れない。 学年10位に入る彼女と、下から数えた方が早い自分が同じ高校に入れるわけがない。 それなら、最後に思い出くらい作ってもいいんじゃないか……? 「じゃあ、うちに勉強しに来る?」 和也は中学校3年間で1番の勇気を絞り出した。 「兄貴に頼んどくからさ」 そして実現された和也の家での勉強会。 前田と大島は喜んでやってきた。 玄関で迎えた和也は口をあんぐりと開いた。 大島は白いセーターにジーンズ。シンプルだが、ボディラインを強調するなかなか色っぽい。 そして前田は―――。 ピンク色のカーディガンにブラウンのAラインスカート。 めっちゃ可愛い。それになんか…… ―――いい匂いがする。 「鼻の穴、膨らんでんぞ」 和也は視線を上げた。 ―――げ。 見上げるとそこには、やや大きめのツートンのパーカーを着た、(じゅん)が立っていた。
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