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春の日の夜明け、東京都多摩地区の観光牧場で、従業員が数頭の牛を畜舎から広大な牧草地へ出していた。
年配の厩舎員と、新人の若い男が二人で、牛を導いて広々とした草地へ放す。若い新人は何度もあくびをかみ殺した。
その様子を見たベテランの男が笑いながら言った。
「なんだ? 眠くてしょうがないって顔だな」
新人が苦笑しながら答えた。
「いや牧場の朝は早いって聞いてはいたんすけどね。こりゃ思ってたよりきついすわ」
「そのうち慣れるさ。俺もこの仕事始めたばかりの頃はそうだった」
三頭目を厩舎から出したところで、新人の男が牧草地の端を指差してつぶやいた。
「あれは何です? ずいぶんでかい鳥だな」
ベテランの男も手を目の上にかざして眉をひそめた。
「どっかの動物園のダチョウでも逃げ出したか?」
その巨大な鳥は最初ゆっくりと太い脚を動かして彼らの方に近づいて来た。異変に気付いた牛の一頭が甲高い鳴き声を上げた。
それを聞いた巨大な鳥は突然スピードを上げて疾走し始める。ダンダンダンと地面を叩く音がした。
新人の男は、自分の眼の遠近感が狂ったのかと思い、手の甲で目をこすった。ダチョウではなかった。ダチョウよりはるかに体高が大きい。しかも頭部がオウムほどの割合がある。
「違う、ダチョウじゃねえ。ば、化け物だ!」
新人の男が叫び、ベテランの方は厩舎から出ようとする牛をあわてて中に押し戻した。
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