長すぎた鉾

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 近づいて来たその鳥は、体高3メートルはあった。赤茶色の羽毛に覆われた巨体と丸太のような鉤爪のある脚。象牙色の太いくちばし。頭部だけで長さ80センチはあり、全身の三分の一を占めている。  地響きを立てて駆け寄った巨大な鳥は、片方の脚を高々と上げ、逃げ遅れた一頭の牛の背を上から踏みつけた。  牛は地面にねじ伏せられ、鳥の脚の鉤爪が食い込む。悲鳴を上げてのたうち回る牛の頭を巨大なくちばしが突き刺す。  頭を潰されて動かなくなった牛の腹を、鳥のくちばしが突き破り、吹き出す血とともに内臓の肉をえぐり出した。  ちぎれた肉の塊を、巨大な鳥は頭を真上に向けて呑み込んでいく。たちまち牛の体は骨が見えるまで肉をはぎ取られていく。  二人の厩舎員は、恐怖で顔を真っ青にして建物の中に飛び込み、牛が中にいる厩舎の鉄の扉を閉め、ベテランの男は事務所の部屋へ飛び込んだ。  震える手で固定電話のボタンを押す。数秒でつながった電話の向こうの警察のオペレーターに向かって彼は叫んだ。 「事件だ、牛が襲われてる! いや、そういうんじゃない。鳥だ。化け物みたいなでかい鳥が!」  外の様子を確かめようとガラス窓の方に目をやったベテランの男の顔が引きつった。手を伸ばせば届く距離にある窓から、野球ボールほどもある血走った眼玉が男を見つめていた。  ガラスが砕ける音と、窓枠の木がへし折れる音がけたたましく響いた。厩舎と事務所の境のドアの隙間から見つめている新人の男の目の前で、ベテランの厩舎員の体が太いくちばしに挟まれ、そのまま窓越しに引きずり出されて行った。  腰を抜かしてその場に座り込んだ新人の男の耳に、机からだらんとぶら下がった固定電話の受話器からの声が聞こえていた。 「もしもし? 今のは何の音です? 聞こえていますか? もしもし? どうしたんですか?」
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