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数十分後、警察の機動隊が牧場を包囲していた。厩舎の壁を蹴り破ってさらに二頭の牛を食い殺した巨大な鳥は、どんよりと曇った空の下で草地に座り込み、動きを止めていた。
パトカーが一台、ゆっくりとしたスピードで厩舎に近づき、物陰で震えていた新人の厩舎員を助け出した。
鳥を刺激しないようにノロノロとしたスピードでパトカーは、部隊の待機場所へ戻って来た。
パトカーの中で警察官から事情を聞かれた彼は、うわ言の様に途切れ途切れの口調で告げた。
「あの化け物が、牧草地の端っこに……牛が食われて……その後、先輩が、先輩が……うわああ」
機動隊の隊長がパトカーの窓をコンコンと叩いた。制服警官が外へ出ると、隊長は中の厩舎員に聞こえないように、耳打ちした。
「本部から射殺命令が出ました。狙撃銃が到着し次第、我々が接近します」
制服警官はほっとした表情で応える。
「頼みます。私たちの拳銃程度で何とかなる相手じゃなさそうだ」
「また、念のため、都知事が自衛隊に出動を要請しました。害獣駆除の名目で」
「自衛隊まで!」
「あなた方はあの厩舎員の方を安全な場所へ避難させて下さい。付近の交通封鎖もお願いします」
十分後、箱型の機動隊の警備車両が狙撃銃を運んで来た。十名の機動隊員はそれぞれに狙撃銃を持ち、半円状の陣形を組んで巨大な鳥にじりじりと近づいて行った。
鳥の眼が開き、立ち上がった。高さ3メートルの位置にある血走った目玉が機動隊員たちを見回す。早くも気配に気づいたようだった。
巨大な鳥は突然走り出し、自分から見て左端に位置する機動隊員に向かった。わずか数秒で隊員の目の前に肉薄し、片脚を上げて隊員の体を跳ね飛ばす。
「発砲を許可する! 各自対処せよ!」
機動隊の隊長が叫び、機動隊員は狙撃銃を撃ち始めた。最初の2発は鳥の体に命中し、赤茶色の羽毛が宙に飛び散った。
だが鳥はたいしてダメージを受けた様子はなく、隣の位置の機動隊員に向かって突進した。その隊員は続けて狙撃銃を発射したが、鳥のスピードのあまりの速さに狙いを外してしまった。
時速60キロを超えるだろうスピードで走り回る巨大な鳥に、機動隊員たちの銃の狙いが間に合わない。
鳥の巨大なくちばしが目の前の隊員のフェイスシールドに突き刺さる。顔への直撃は免れたものの、その隊員は数メートル後ろに吹き飛ばされた。
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