めばえる、めばえる。

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めばえる、めばえる。

「知ってる?“正義の味方”のチューリップの作り方!」 「せいぎのみかた?」  遊子(ゆず)ちゃんの言葉に、あたしは首を傾げた。小学校の授業の一環で、あたし達は学校でチューリップを育てることになるらしい。何色のチューリップがいいのかは、好きなように選ぶことができると聞いている。あたしはもちろんピンク色の花が咲くチューリップを選ぶつもりでいたし、遊子ちゃんは断然黄色だと言っていた。その会話の流れである。  突然、遊子ちゃんがこんなことを言いだしたのだった。普通のチューリップを育てても面白くないから、と。 「なんかね、ネットにおまじないみたいなのが載ってて。チューリップでやるのが一番いいって言うから!」 「遊子ちゃん好きだよね、そういうおまじないとか」 「だって魔法みたいで面白いじゃん!ねえ、夢ちゃんもやろーよ!」  ちなみに夢、というのがあたしの名前。偶然だけど、遊子ちゃんと名前の頭文字が一緒だ。ついでに、苗字の頭文字も一緒。運命のお友達だね!とクラス替え直後に意気投合して仲良しになったのである。  難しい本ばっかり読んでるあたしと、運動神経抜群で運動会ではいつもヒーローの遊子ちゃん。全然性格は違うけど、正反対だからこそ気が合ったというのはあるのかもしれない。  そんな遊子ちゃんは、学校の怪談とか、おまじないとかが大好きでよくあたしに教えたり誘ったりしてくれるのだった。ひとりかくれんぼ、というのは流石に怖かったので誘われても断ったけれど。 「変な育て方したら、先生に怒られるよ」  あたしはちょっと渋い気持ちで遊子ちゃんに言ったのだった。 「チューリップ育てて、毎日お水あげて、日記書かないといけないんだよ。でないと、成績表でA貰えないよ。あたし、お母さんに中学受験するように言われてるし、成績が全部Aじゃないと困るんだけど」 「今のうちから成績表気にしないといけないの?夢ちゃんって大変だね。うちと一緒に公立の中学行けばいいのに」 「お母さんが私立に行きなさいって言うんだもん、逆らえないよ」  はっきり言って、クラスの友達の多くは近場の公立中学へ行くし、あたしだけ東京の私立になんて行きたくはないんだけれど。でも、お母さんが行けって言うなら、逆らえないのだ。そのために高いお金かけてあたしを塾に行かせているのがわかっているなら尚更。 「変な育て方じゃないよ……多分」  遊子ちゃんは、ちょっとだけ自信なさげに言った。 「ちょっとだけ変わった手順をするだけでいいんだって。そうしたら、正義の心を持つチューリップが育ってくれて、悪い人をやっつけてくれるんだって」 「悪い人って、どういう人が悪い人なの?」 「さあ」 「さあって」 「人を苛める人とか、人を殺した人とか、万引きした人とかじゃないの?うちにもよくわかんないけど」  相変わらず、彼女の話はふわっとしていて脈絡がない。それでも、正義の心を持つチューリップ、というのはちょっとだけかっこいい気もする。とりあえず話だけなら、とあたしは耳を傾けてみることにしたのだった。
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