4人が本棚に入れています
本棚に追加
***
やり方は、とても簡単だった。
チューリップの球根を植える時に、一緒に小さな紙を土に混ぜるのである。自分の血をちょっとだけ混ぜた紙で、そこに“かれこそはだんざいしゃ”と書くのだそうだ。それを、千切って土の中に混ぜ込む。あとは、普通のチューリップと同じように育ててばそれでいいらしい。ただし、ちゃんと花を咲かせるまで育てないと効果がないのだそうだ。
芽が出る時に、普通のチューリップよりも赤い色をした芽が出れば成功しているらしいのだが。
「音楽の河合先生が休職してしまったので、しばらくは音楽は他の先生が担当します。基本的には私がやることになると思います」
「はーい」
朝のホームルームの時間。先生の話を聞きながら、あたしは欠伸をしていた。河合先生は若い男性の先生だ。赤ちゃんができたから休みます、ということではないはずである。最近少し顔色が悪かったし、病気でもしてしまったのだろうか。
他の先生がお休みになると、担任の溝口先生が代わりを務めることは多い。溝口先生はあたし達からすると、立派に“おばあちゃん”の領域に入る先生だ。怒るととっても怖いので、学校の裏ボスだなんて呼ばれている。溝口先生はピアノがあまり上手ではないと言っていたのに、音楽の授業なんてできるのだろうかと少しだけ心配してしまった。
――今のところ、チューリップの土に紙を混ぜたこと、誰にもバレてない……よね?
あたしと遊子ちゃんだけ、おまじないの方法を試している。変なやり方して、と先生に怒られたらちょっと面倒くさい。ただの紙なので、多分チューリップに大きな悪影響は出ない、と思うのだが。
――結局、試しちゃったもんなー。正義のヒーローみたいなチューリップが育つなんて面白そうだし。
教室で、眠気を堪えながらつらつらと考える。悪い奴をやっつけてくれるらしいのだが、一体どうやってチューリップが悪者を退治するのだろう。それに、遊子ちゃんも“どういう人が悪者になるのか”はまったくわかっていないようだった。相変わらず彼女の話は尻切れトンボである。
――まあ、何でもいいや。ちょっとでも面白いことが起きればー。
二度目のあくび。溝口先生がこちらを睨んだことに気づいて、あたしは慌てて口を押さえたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!