めばえる、めばえる。

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 ***  やり方は、とても簡単だった。  チューリップの球根を植える時に、一緒に小さな紙を土に混ぜるのである。自分の血をちょっとだけ混ぜた紙で、そこに“かれこそはだんざいしゃ”と書くのだそうだ。それを、千切って土の中に混ぜ込む。あとは、普通のチューリップと同じように育ててばそれでいいらしい。ただし、ちゃんと花を咲かせるまで育てないと効果がないのだそうだ。  芽が出る時に、普通のチューリップよりも赤い色をした芽が出れば成功しているらしいのだが。 「音楽の河合(かわい)先生が休職してしまったので、しばらくは音楽は他の先生が担当します。基本的には私がやることになると思います」 「はーい」  朝のホームルームの時間。先生の話を聞きながら、あたしは欠伸をしていた。河合先生は若い男性の先生だ。赤ちゃんができたから休みます、ということではないはずである。最近少し顔色が悪かったし、病気でもしてしまったのだろうか。  他の先生がお休みになると、担任の溝口(みぞぐち)先生が代わりを務めることは多い。溝口先生はあたし達からすると、立派に“おばあちゃん”の領域に入る先生だ。怒るととっても怖いので、学校の裏ボスだなんて呼ばれている。溝口先生はピアノがあまり上手ではないと言っていたのに、音楽の授業なんてできるのだろうかと少しだけ心配してしまった。 ――今のところ、チューリップの土に紙を混ぜたこと、誰にもバレてない……よね?  あたしと遊子ちゃんだけ、おまじないの方法を試している。変なやり方して、と先生に怒られたらちょっと面倒くさい。ただの紙なので、多分チューリップに大きな悪影響は出ない、と思うのだが。 ――結局、試しちゃったもんなー。正義のヒーローみたいなチューリップが育つなんて面白そうだし。  教室で、眠気を堪えながらつらつらと考える。悪い奴をやっつけてくれるらしいのだが、一体どうやってチューリップが悪者を退治するのだろう。それに、遊子ちゃんも“どういう人が悪者になるのか”はまったくわかっていないようだった。相変わらず彼女の話は尻切れトンボである。 ――まあ、何でもいいや。ちょっとでも面白いことが起きればー。  二度目のあくび。溝口先生がこちらを睨んだことに気づいて、あたしは慌てて口を押さえたのだった。
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