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不思議なことは、想像以上に早く起きた。球根を埋めて、なんと一週間後にはもう土の中からちょこんと芽が出始めていたのである。
「チューリップの芽生えって、こんなに早いもんだっけ?」
「さ、さあ……?うちもちょっと早いなとは思うけど」
遊子ちゃんと顔を見合わせて首を傾げる。まだ十月。チューリップは、冬を越えてもっとあったかくなってから芽を出すものだと聞いていた。いくらなんでも、球根を植えて一週間で芽なんて出るものだっただろうか。
しかも、翌日にはもう大きな芽になっていた。それも、どこか妙に赤っぽい。あたしと遊子ちゃんの鉢植えだけだ。他の子のチューリップは、まだ全然土ののまんま動きがないというのに。
――おまじないのせい、なのかなあ。でも、小さな紙混ぜただけだよねえ?
気になりながらも、二人でせっせと水をあげつづけるあたし達。すると、芽が大きくなってきてから、溝口先生がちょいちょいとあたし達の様子を見に来るようになったのだった。
先生なら、芽が早く出てしまう現象について知っているかもしれないと思ったのである。まさかおまじないのせいで、こんなに早くチューリップが急成長するなんて、この時のあたしは思っていなかったからだ。確かに赤っぽい芽は出たけど、きっと偶然に違いないと。
「原田さん、橋本さん」
先生は、あたしが何かを言うより前に尋ねてきた。ちなみに原田、が遊子ちゃんの苗字。橋本、があたしの苗字だ。
「何か変なもの、鉢植えに植えた?」
「え」
「ねえ、本当にチューリップ、植えた?」
何故、そこから疑われるのだろう。おかしなものを土に混ぜたとか変な育て方をした、ではなく。植えたのがチューリップではない別の植物だと思われているらしい。確かに、芽が出るのが早すぎるのは事実だが。
「ううん、普通の黄色とピンクのチューリップだよ?ねえ、遊子ちゃん」
「うん。うちら、ちゃんとチューリップ植えたよ、先生」
「そ、そう……」
あたし達が嘘をついていないと信じてくれたのか、先生はその時はすぐ引き下がってくれた。心なしか、いつも強気な先生らしからぬ妙に青い顔をしていたけれど。
「そう、そうよね。じゃあ、先生の……見間違い、よね」
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