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魔王様、最強の敵に苦戦するの巻
白い雪が少しずつ溶け、日差しも暖かくなってきたこの時期。
冬眠していた動物達も、少しずつ目覚めて穴蔵の外へと這い出してきている。春の足音を誰もが少しずつ感じていた。それは、この世界を支配せんとする魔王軍とて変わりはない。
魔王がひっそりと育てていた、春になると育つ“ミサクラソウ”。その鉢植えの中から、ぴょこりと可愛らしい芽が出ていた。
ミサクラソウの芽生えは、自分達にとって一つの合図としても活用されている。
そう、春の訪れはつまり。魔王軍にとって最大最強の敵が襲来する時期になることを意味しているからである。
「皆の者。私が育てていたミスミソウの芽が出てしまった。つまりは、奴が現れるまでもう時間がないということだ」
魔王城。
玉座の間に集まった兵士達を前にして、魔王は陰鬱な気持ちで告げた。部下達から漏れ聞こえるのは小さな悲鳴、落胆の声、嘆きの声。誰もが魔王と同じ敵の襲来を恐れているのである。去年は奴に太刀打ちできず、魔王軍は危うく壊滅の危機にさらされたからだ。
その敵とは。女神が連れてきた異世界転生チートの勇者ではない。
山奥に棲む巨大なドラゴンでもなければ、レベルマックスまで鍛え上げられた成り上がりの戦士でもない。
それは、つまり。
「何としてでも、今年こそ打開策を見つけるのだ!」
魔王は皆を鼓舞するように椅子から立ち上がり、拳を突き上げて叫んだのだった。
「何としてでも克服するぞ……花粉症をっ!!」
「おおおおおおおおお!!」
三月から五月は花粉の季節。異世界でもそれは変わりなし。
魔王軍、去年は花粉症で総崩れになり危うくチートでも何でもない人間の兵士たちに壊滅させられそうになったのである。
あんな悲劇は絶対に避けなければいけない、絶対に!!
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