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プロローグ
ピピピ… ピピピ…
昨日設定したばかりの不快な電子音が部屋の静寂を突き破った。
「ん〜…」
音の元を探るべく、朦朧とした意識で必死に手を伸ばす。硬い機器を落とさぬように持ち、電源を入れると表示される現実。
【7:50】
「げっ……!」
一気に覚醒した勢いで布団を蹴り飛ばし、乱雑に閉めたドアを傍目に階段を駆け降りる。
最低でも家から学校まで40分もかかるというのに、これじゃあ間に合わない。寝起きが悪い方なのは自覚しているが、それでも何とか皆勤賞は保っていた。
髪を手櫛で整え、片手でカッターシャツのボタンを締める。空腹による胃の呻きを無視し、靴に手をかけた。
「いってきます!」
今は誰もいない家にもちゃんと声をかけ、全力で走り出す。
これだけ急いでいたら忘れ物の1つや2つしているだろうが、もっと気がかりなこと。
(味噌汁、飲んどきゃ良かった)
遅刻してでも。
テーブルの上に寂しく置かれたお椀が頭の中をよぎった。
多分これは何度生まれ変わっても後悔するだろうな、と他人から見れば少々大げさな事を桜大は息を切らしながら思うのだった。
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