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01.看護師 ゆかり パワハラ病院を辞める。
私は特命看護師ゆかり。夜の顔は医師をオトす。
けれど、少し前までの私はそうではなかった――。
私、酒井ゆかりは、家族の中で幼い頃から稼ぎ頭。なぜなら、お父さんもお母さんも介護が必要な状態だったから。だから勉強をする間もなくバイトをしながら、家にいる時間は2人の介護をしていた。でも、バイトを続けるだけではダメだと思い、奨学金をもらって勉強をして看護師になったの。
そうやってやっと看護師になったけれど、昔から自分に自信がなくて、自分の意見を言うことができなかったから、仕事をしていても面倒な仕事ばかり押し付けられた。イヤだとハッキリ言えたら、状況も変わったのかもしれない。でも、上司や先輩に、そんなこと……言えるわけない。
資格があると働く上でも有利になると思って取ったものの、実際働きだしてみると有利になることなんてなかった。私は周りの人の顔色をうかがいながら、悪くもないことを謝り、頭を下げ、罵倒されても、どんな仕打ちをされてもヘラヘラと笑った。人としてのプライドなんて、幼い時からほぼなかったけど、この病院に来てからは本当に失ったと言ってもいいかもしれない。
何をしても全部自分が悪い。私は自分の評価を下げて生きる道しか見つけられない。そんな時に、介護をしていた両親が亡くなった。家から電話がかかってきて、早く帰りたかったけど、上司から早退なんて許さないと言われて帰れなかった。その帰れなかった日に他界した……。
どうしてなんだろう。どうして私はこんな目に遭っているんだろう。そこで初めて、自分の置かれている状況が普通じゃないって思うようになった。
「そうか。私イジメられてる……パワハラを受けているんだ」
私は人生で初めて勇気をもって、病院でパワハラされたって武政事務長に相談してみた。すると、その日の午後に武政事務長に呼び出されて行ってみると、そこには橋本看護師長もいた。トップの2人がいるのなら、ちゃんと話を通してくれたんだって期待したの。でも。
「酒井さんあなたね、自分の言葉の意味が分かってる?」
私は武政事務長の言葉の意味が分からなかった。だからもう一度同じ言葉を使うことにする。
「私はパワハラを――」
「ストップ! 何もわかってないのね」
「どういう意味ですか?」
「パワハラ委員会が病院組織そのものなんだから、相談されても意味がないということよ。大体あなたが受けていることも調べてみたけど、パワハラなんて大げさなのよ。ただの指導じゃない」
「指導……」
「ふん。あなたにはがっかりね。こんなに根性がないなんて思わなかったわ」
今まで静かに見ていた橋本看護師長は、虫けらを見るような目で私を見た。そして私は、その部屋を追い出された。
何これ。どうなってるの? どうして私が非難されなくちゃいけないの?
私の中に沸々としたものが沸き上がってくる。
事務長なんて、親のコネでなっただけなのに。あんなにえらそうに。あんただったらね、私が受けてきた仕打ちを1度でも受けたら、すぐに泣き出してしまうくせに!!
この病院では、私みたいにいじめられたり、パワハラに遭う人が多いらしい。そしてそんな中には、自殺を選ぶ人もいる。私はそこまで、この病院で追い詰められたくない。それに、こんな病院、こっちから願い下げよ!
私はその日に退職届を手渡し、翌日から病院には行かなかった。こんな大胆な行動を取ったのは初めてで、ドキドキしてしまう。
私もやればできるんじゃない……!
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