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 大きく息を吸って、どぼーん。ぶくぶくぶく……。ルカは潜って行く。視界のすべては青、青のレイヤーがどこまでも重なり続く海。  飛び込んだ瞬間、ルカはいつも通りの学校の制服姿だった。スカートが持ち上がり、すぐにイメージを切り替えて、ぴったりした水色のウエットスーツに置き換えた。身軽になった体を翻し、頭を下に、足を上に向けて、魚のように流線型になってルカは透明な水の中を下降して行った。背後の水面から照らす陽の光が、行く手を明るく照らしていた。前方から浮かび上がって来る無数の泡が、乱反射してきらきらと輝いた。両手は体にぴったりと付けて、力強くフィンを蹴って、速く、速く、深みの方へ。  と言っても、実際に水がある訳ではない。海はイメージだ。ルカが、上手にダイブするための手がかりとなるイメージ。潜って行くのは、ルカ自身の意識の深層だ。スムーズに深みに向かえるように、ルカはいつも海を思い描く。漂うルカの体をすっぽりと包み込む、とてつもなく深くて大きな海。
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