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 意識は海に似ている。それは確かだ、とルカは思っていた。浅いところは明るく澄んでいて、水の外側から見下ろしてもよく見通すことが出来る。深く潜って行くにつれ、青はだんだん濃くなって、視界は闇に閉ざされていく。だが、闇の奥には海底があって、複雑な地形が隠れている。闇の底に広がっているものは、ルカ自身の無意識の広大な領域だ。 (なんてきれいなんだろう)とルカは思った。(人の意識がこんなにきれいなものだって、みんなが知っていればいいのに)  いつものように、完全な闇に達するその手前で、ルカは潜行を止めた。頭を上に姿勢を立て直し、中層に浮かんで静止する。中層は夕暮れ時のような薄暗さの中にあった。ルカは薄明の中に浮かび、右腕に付けた腕時計型のダイバーズコンピュータを覗き見て、現在の深度と潜行時間を確かめた。これもまた、話を簡単にするためにダイビングから借りてきたイメージであって、見た目通りの本物ではないが、スムーズな行動には役に立つ。ルカがスイッチを押すと、ピッという電子音と共にビーコンが発信された。しばらく待つとまた電子音が鳴って、進むべき方向を示すコンパスが表示された。
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