夢見る世界

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夢見る世界

 ゆっくりと流れる雲と、降り注ぐ太陽の光。  静かに時間が流れていく中、始まりの村『ファース』から徒歩で10分ほどの草原で、俺は薬草採取をしている。  足元にある大きな葉が特徴の草には、オレンジ色の▼マーカーが付いている。  俺はそれに向かって手を下ろす。  そしてそのマーカーを指で触るとマーカーが消え、変わりに『採取』という文字が現れて、大きな葉の草がその場から消える。  それと同時に、頭の中に直接聞こえる女性の声。 《モニの葉を採取しました。》  これで10枚。 「よし、次。」  腰を上げた俺は、次の目的地に向けて歩き出す。  元々が乱雑な黒髪を、草原を撫でるそよ風が微かに揺らす。  本当なら太陽からの日差しで汗をかき、そよ風が心地よく汗を消してくれるはずが、この世界は熱を感じる事が出来ない。だから、汗をかくことも無い。  ここは『夢想幻国』  人が寝ている時に見る、夢の中の世界。  睡眠時の意識を仮想世界に繋げる技術が発明され、大規模多数の人達が、同一の世界で同じ時間を過ごす事が出来る、世界初のフルダイブ型ヴァーチャルリアリティーゲーム。  夢の世界を使っているので、熱以外にも当然、痛みや味覚に臭覚なども感じることが出来ない。  物を掴んだり触ったりしても、本来なら触覚を感じる事も出来ないけど、ゲーム的に最低限必要なこともあり、物理的感触はプログラムで作ってある。  そして、4日後の大型アップデートで、待望の味覚と臭覚と温度感知が実装される。  といっても全てではなく一部のみになるらしい。だけどプレイヤーにとっては歓喜し踊り騒ぐほどのことには変わりはなかった。  この風の匂いと、日の温もりを感じる事が出来ると言っていたので、俺も早く4月2日が来ないかと期待していた。  同じ草原の、少し東側に移動した俺は、体長50cmほどの灰色の大きな兎の群れに狙いを定める。  俺は『マジックアロー』の発動に意識を集中し、視界に入る兎を次々と『ロックオン』していく。  視界の中にいる3匹の兎に赤い○マークが付いていく。  そして、前に出した短剣から3本の光の矢が放たれて、同時に3匹の兎に当たり砕け散った。  正確には、ガラスの彫刻のような透明な像になって、すぐに砕け散り霧散するように消える。 《ラビトンの肉を入手しました。》 《ラビトンの肉を入手しました。》 《ラビトンの霜降り肉を入手しました。》 「よし!」  俺は魔法の再使用時間を待って、次の獲物に向かって『マジックアロー』を撃つ。
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