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だから俺は大きく深呼吸をして、自分の気持ちを切り替えた。
「判って貰えればいいですけど、俺はなにも問題ないですが、彼女のクエストを台無しになった事に対する補填はどうするつもりなのですか?」
「えっと…そうですね…クエスト報酬のアクセサリーを後日送らせて頂くという形になりますが…」
顔を上げたGMの顔は反省しているようだったけど、テンプレート対応に俺はまた怒りが込み上げてしまった。
「あのですね。物があれば良いという訳じゃないですよね。貴方の不注意で、クエストを楽しんでいた彼女の気持ちと時間。それと、報告をしたときの達成感。なにもかもが台無しになったんですよ。それに彼女は始めたばかりの新規プレイヤーで、これからって時に、神殿の干渉不可を利用しようとしていたあの人達を結果的に保護した事。守るべき対象まで間違ったんですよ。その責任がアイテムを送るだけ? プレイヤーなめてますか?」
最初は温和な口調を心掛けていたけど、結局最後の方になると、怒りの感情が言葉に乗ってしまっていた。
「すみません。本当にすみません。」
何度も頭を下げるGMに半分呆れていたのか、俺はそれ以上何も言えなくなっていた。
「はぁ…白竜討伐までは楽しかったんだけどな…ミサさん、すみませんでした。俺がソウルオーブ使わずに、5分だけ粘って後は逃げれば良かったですね。」
俺は自分が招いた結果でもあると気付き、ミサさんに頭を下げる。
「いえ、それは全然大丈夫です。リツさんに声をかけて貰えなければ、そもそもクエストの場所すら判らなかったのですから。」
まあ、そうなんだけど…幸いな事は『白竜パティア』のドロップ品が彼女の…
「そうだ、ミサさん! パティア討伐後のドロップアイテムはインベントリにありますか!?」
ここで、ドロップ品までもなかった事にされたら、流石に怒る。
いや、既にちょっと怒ってはいたけど、消えてたら、その保障も目の前のGMに確約させないと。
「えっと…ちょっと待ってください。」
システムメニューを開いて『インベントリ』の中のアイテム欄を見ている為、ミサさんは手元の空中を真剣な面持ちで眺めている。
「『白竜パティアの宝箱』ってのがありました。数は20個です。これですよね? あと…」
「はいそれです。良かったぁあ。GMさん、このドロップは彼女の正当なアイテムですよね?」
「うっぐ。うぇっ…ばい、ぞうです…」
目の前で俯いている金髪天使の声は…完全に泣いている時の声だった。
「え?! すみません。そんなつもりは無かったんです。俺もちょっと言い過ぎました。」
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