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まあ、報酬も能力無しの見た目アクセサリーなので、わざわざする人は今では殆どいないけど…折角なのだからクリアして欲しい。
俺は鉢植えを抱いている女性に声をかける。
近づいて判った事は、俺より10cm程低い身長という事と、少女のような幼さのある顔をしているという事だった。
もちろん仮想世界の姿なので、見た目が現実とはかけ離れているのが一般的だけど、俺はその女性から出る雰囲気というものが、目の前にいる姿に合っていると感じていた。
姿は変えられても、立ち方や仕草などで、現実の人物像が出てしまうのも仮想世界ではよくあることなので。
「それって、ヴェルレインの花を探すクエストですよね?」
背後から声をかけた訳でもないので、当然女性は身構えていて俺が声をかけるのを待っていた。
「はい。教会のモーラさんからのクエストなのですが…パティアの花園という場所が判らないのです。」
案の定だった。
この『夢想幻国』というVRMMOのゲームは、基本的なシステムボード操作系のチュートリアルはあるけど、それ以外の説明は殆どない。
だから、クエストナビゲーションなんてものも当然ない。
モーラさんに場所を訊ねても、これは女神からの試練の一つと言われているクエストなので、
「村の南にあるそうですが、異界の人達だけが行く事が出来る場所だと聞いています。」
という返事になる。
「あと、残り何分ですか?」
「えっと、30分です。」
「なら余裕で間に合いますね。案内しますから一緒に行きましょうか?」
不安な表情から少し笑顔になった女性が、遠慮気味に「お願いします。」と答えたので、俺はシステムメニューから『PT申請ボード作成』をクリックする。
俺は目の前に現れたシステムメニューに似たボードを掴んで、目の前の女性に渡す。
「パーティー申請のボードになってます。確定ボタンを押すとパーティーを組めます。」
ゆっくりとボードを確認した女性が、確定ボタンをクリックする。
《ミサがPTに加入しました。》
「ミサさんって呼んでもいいですか?」
「はい。」
「それじゃ、ミサさん。早速向かいましょう。」
村の門を出た俺は『パティアの花園』までは徒歩で15分程だと説明し、帰りは村の転移ゲートに戻るオーブを使う事を伝える。
「そんな…良いのですか?」
「はい、こういう時の為に買っているので、使わないと意味がありませんから。」
「ありがとうございます。」
深く頭を下げるミサさんに、俺は「ほんとうに大したことじゃないですから。」と、言葉を返す。
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