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「テル様ですか? ですが…」
アイリスさんが否定的なのは判っています。
あの人は、私達の前から突然居なくなったのだから…
メールで別れの挨拶を一方的に送って、それから音沙汰なしになって、もう一年くらいになる。
私達の前から突然居なくなった理由はなんとなく判るけど、私はそれでもあの人を許せない。
だから、見つけたら文句を言ってやる! とずっと思っていた。
「いいのよ! あの人には、沢山言いたい事があるから、それを言いに行くだけだから。」
「でしたら、私もご一緒させてもらいますね。」
「もちろん、あなたも当事者なんだから、遠慮なんて要らないわよ。」
私は逸る気持ちを抑えながら、フォレスト・アイリス・ジンロック・ローズマリーを連れて、ワルドさんという方の店に向かった。
だけど、ジンロックさんとローズマリーさんに案内された店には、誰も居なかった。
「ワルドさん、居ないみたいですね。」
2階の工房と3階のマイルームに連絡が入るチャイムを鳴らしていたジンロックさんの答えに、私は明らかに落胆の顔を見せる。
「メールを送ってみます。」
ジンロックさんがキーボードを叩く仕草を始めたので私は、待つことにしました。
今、15時52分。もう、17時まで1時間しかない。
初心者装備を探したほうが早いかも…
ギルドメンバー総出ですれば…でも、私用で使うのは私が許せないし。
「フォレストさん、アイリスさん。冒険者組合の周囲で初心者装備の人が居ないか探してきてくれますか? 情報だけでもいいです。」
「「判りました。」」
店から中央広場に向かう二人を見送った私は、ジンロックさんの結果を待つことにした。
「マスター、ワルドさんからの返事ですが、リツさんとは名刺交換だけなので、直ぐには連絡がつかないそうです。」
名刺交換ですか。ますます、あの人と同じね。
メールアドレスだけを伝える『名刺交換』だとログイン状態は判らない。『フレンド登録』で初めてログイン状態が判り、電話機能も使えるようになる。
ただ、どちらもキャラクター1つに対してなので、別キャラの存在自体、本人が言わなければ誰も知ることは出来ない。
唯一、全てのキャラクターを知ることが出来るのは、『パートナー契約』になり、それは現実世界の結婚と同じ扱いになっている。
「そうですか、ではまた後日になりますが、そのリツさんとの面会の段取りをお願い出来ますか? くれぐれも、私やギルドの名前は出さないでお願いします。」
「はい。ワルドさんに、お願いしておきます。」
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