夢見る世界

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 俺は進行方向を向いたまま、声を掛ける。  「一つ、質問してもいいですか?」 「あっ、はい。」  本当は、この時期にゲームを始めた理由と、村にずっといる理由の二つが気になっていたけど、ゲームを始めた理由はプライベートな話なのでマナー違反になるから、俺はゲーム内の疑問だけを聞くことにした。 「どうして村に残っているのですか? クエスト的にも利便性的にも、次の町に行くのが良いと思うのですけど。」  走りながらのミサさんは、少し悲しいような、申し訳なさそうな顔になっていた。 「えっとですね…一度、行っては見たのです。でも人が沢山居て、声をかけて来る人も沢山いて…人付き合いの練習でこのゲームを始めたのですが…」 「ああ、そうですね。判りました。すみません、その辛さは俺にも判ります。」  ゲーム的な理由だと思ったけど、そうだよな…初心者がゲーム的理由で村に残る理由なんてあるはずないよな。 「この時期に新規プレイヤーの人を見かけると、大抵の人は声を掛けたくなりますからね。興味本位半分と親切心半分とか…あとは下心で近づく人もいるので…まあ、これはリアルと同じですね。」  プライベートな事が理由だと知った俺は、配慮が足りなかったと自分を責めながら、ミサさんが少しでもゲームを楽しんで欲しいと願う気持ちから、プレイヤー達の行動理由を口に出していた。 「やっぱり、4月から始めるのが正しかったのでしょうか?」  ミサさんの表情は暗く、落ち込んでいるような表情を見せる。 「まあ、ゲーマー的にはそうですが、人付き合いの克服という目的なら、今の方がベストだと思います。毎年4月から5月の連休までは、それはもう、祭りのように騒がしくなりますから。色々と疲れると思いますよ。」  実際、テンションが上がった新規プレイヤー同士がPT組んで狩りに走りまくたっり、村や街で騒いだりするから、ミサさんだとついていけないかもしれない。 「自分のペースで楽しむのが一番ですからね。」  俺はそう言って足を止めた。  そして草原の中にある異様な異物。目の前の黒い柱に視線を向け、ミサさんに説明する。 「この先がパティアの花園です。」 『パティアの花園』  色々な花が一年中咲き誇る丘で、その丘の上には小さな神殿のような建物があり、その神殿の中心には花の女神が祭られている。 「夜空を閉じ込めたような綺麗な色をしていますが、この柱は次元の歪みという物で、触ると繋がっている異界に転送されます。それでは私から入ります。後から同じようにして入ってみて下さい。」 「はい。」
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