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俺は緊張しているミサさんに笑顔を見せてから、『次元の歪み』を触る。
俺が入ったすぐ後にミサさんが横に現れたが、俺はそれよりも目の前の光景を見て気分を落としていた。
パティアの花園と言われる丘の中央に、『ヴェルレインの花』を受け取る事が出来る神殿がある。
ミサさんが目指すその神殿の中には、10人くらいの冒険者が居た。
それが意味するのは、フィールドボス『白竜パティア』の討伐が始まるという事だった。
この花園の奥には『白竜パティア』が不定期に現れる。そしてそれのユニークアイテム狙いのパーティーが来ることに対しては問題はない。
しかし、その狩り方に問題がある。そして彼らが神殿に集まっている理由が、それを今から行おうとしているのは明白だった。
奥で普通に戦闘すれば問題ない話なのだが、干渉不可の『神殿』を使って『白竜パティア』からの範囲攻撃を避ける。というマナー違反を、彼らは今からするという事。
「ちょっと彼らと話をしないと駄目みたいなので、取りあえずは神殿に行きましょうか。」
「あ…はい。お願いします。」
俺の表情と、トーンが下がった言葉でミサさんを不安にさせてしまったことに気付く。
「すみません。心配しないでいいですよ。ちょっとフィールドボスの狩りを後にして貰うって事だけなので。」
俺は笑顔を作って頭を下げる。
神殿の中にある女神像に5分間祈ると現れる『ヴェルレインの花』を摘んだら、後は報告だけのクエスト。時間的にはまだ15分ほどあり、帰りは『リターンオーブ』で帰れば問題はない。
俺は神殿から視線を向ける人達に、無表情を向けながら歩いて行く。
「今から彼女が花摘みクエストをするので、5分ほど待ってもらえますか。」
「花摘みクエスト? なんだそれ?」
装備的には軽装アタッカーの男が第一声を返し、
「ああ、聞いたことある。この神殿の女神像から花が出るクエだったかな。報酬がゴミアクセのクエだから誰もやらないんだけどな。」
ローブと杖の魔術系の男が答える。
「そうか、なら無理だな。いつ別のパーティーが割り込んで来るか判らないのに、5分も待てる訳がないだろ。俺たちはタンクが着き次第始める。そっちこそ邪魔するんじゃないぞ。」
俺は視線を回して次の発言を待つ。
回復系女子や弓系エルフ女子に獣人アタッカー等がいたが、集まっている他の8人は目線を外して知らん顔している。
この場を仕切っているのは、この二人だと俺は確信する。
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