1.墓地

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

1.墓地

29162ba6-e0bf-4d41-b8a2-45c7120c5f7c 濃い霧が、墓所へと流れ、 街のかすかな臭いを運ぶ。 ロンドン北西部の森林地帯を拓いて近年作られた、 ハイゲイト墓地に植えられた木々は朱に染まり、 墓石が落ち葉の血溜まりに埋まる。 俺は墓石を埋める落ち葉をかき集め、 今日も黙々と掃除に励む。 人間、仕事は選べない。 俺は墓守の手伝いをして、 かれこれ20年になる。 19世紀も半ばになると経済成長だかで、 景気はよくなり都市部に人が集まった。 人口が増えれば当然、死者も増える。 死者が増えると埋葬地が足りなくなる。 そんな理由でできたのがこの墓地だ。 ロンドンには仕事を求めて余所者が集まる。 俺も15歳のときに身寄りを失いここへ来たが、 年の近かった弟はすぐに死んでしまった。 こんな霧の深い日だった。 墓守の仕事は墓地の掃除だけではなく、 名前の通り、墓荒らしから墓を守ることだ。 ただ、墓守などという仕事は、 生産性がないので一生低賃金であり、 まして楽して金を稼ぐ仕事とはほど遠い。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!