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それにしても鈴木警部にはホトホト呆れてしまう。自分で作った台本を所々間違えるのだから。「9階」と言うところを「8階」とか。乱暴に壁を蹴るなんて台本にはなかった。まあ何はともあれ事件は解決したのだから、これでヨネさんも浮かばれるだろう。
奈緒は日誌を閉じた。着替えを済ませて帰路に就く。
天を仰ぐと、満月の明かりが何かを祝福しているようだった。それでもマンションの前まで来ると憂鬱な気持ちになる。
仄暗いエントランスを抜けてエレベーターホールへ。「上」を押すとドアが開いた。カゴに乗り込み『7』を押す。ドアが閉まりカゴは緩慢に上昇した。
2、3、4、5 ガクン、カゴが止まりドアが開く。そこには誰も居ない。ややあってドアが閉まった刹那――蛍光灯が明滅した。
奈緒はハッとして振り返った。そこには当然ながら誰も居ない。
次のボーナスが出たら絶対に引越してやる……と奈緒は胸の裡で呟いて向き直るとカゴは動きだした。このとき奈緒は気付いていなかった。背後の大きな鏡の隅に老婆が映っていることに。
〈 了 〉

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