白夜

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『 9月17日   今日から、日記を書くことにした。 ずいぶん急ねって言われちゃいそうだけれど、時間がなくって。今書かないと、書けないような気がしたの。  だってもう、余命半年になった。  死期が近くなった人は日記をつけることが多いらしいけれど、もう私もその一人。日記をつけながら残りの日数を数える日々が始まる。最近は咳や息苦しさに加えて頭痛もするようになり、体が疲れやすくなった気がする。流石に癌が進行してることが分かる。 病院には、癌だと宣告された一回と、去年の2回以来1度も行っていない。「整理がついていないので一度家族と話させてください」ってお願いしてそれっきり。治療なんて、初めからする気がなかったから。 余命半年……こうして日記にしようと思うと何だかうまく書けない。私に文才はないのかも。 私がこの街に引っ越してきて幸せだったのは、やっぱり良い人達にたくさん恵まれたこと。特にお隣の望月さん夫婦は、私のことをすごく気にかけてくれていて何だか昔の両親を思い出してしまった。家族みたいな温かい空気が、すごく好きだった。 近所の方もみんな親切で優しくて、この街に来たのは正解だったんだと何度も思った。 でも、それももうはるか昔のことに思える。私は紗代子さん達を裏切ってしまったから。だから2人は離れて行ってしまったし、私も近寄れなくなった。 1人に、なってしまった。 だからかな。 死ぬのも別に怖くない。死ぬからって、何かを呪ったりすることもない。理不尽への怒りとか、そんなものを超越したところに、私はいる。 余命宣告通り、半年後に死ぬだろうか。 それとも、早まって明日死んだりするのかな? いいえ、どちらも、あまり変わらないような気がする。 もし、そう言ったら。 それを聞いて怒ってくれる人は、私には、まだいるのだろうか。 なんて。』
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