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ロンドン・コーリング
その時、ロンドンのドイルズ本部に、異様なアラートが響き渡った。
意識を取り戻したフォーンのパムも、レイモンドも狂乱の坩堝にあった。
「うるせえなあ。今忙しいみたいぞ?こっちのワンワンファミリーは」
うんざりしていたのは、銀正男だった。
視線の先にいたエルネストファミリーは、それどころではなさそうだった。
「済まねえす!んだば、こんな凄え霊気は感ずたこどもねえす!パム!どげんだ?!」
「解りません局長!ああ!測定器の針が振り切れて!まさか!ああ神が!」
「騒ぐな。どうせあいつだろう?」
元気を取り戻した勘解由小路水色は、勢いよく立ち上がって走り出し、空間を割って現れた父親に抱きついた。
「パパー!」
「おう水色元気にしてたか?父ちゃんの登場だ」
現れたのは冥王ハデス、ブッチギリの神だった。
「とりあえず、ヨーロッパ近辺がスッキリしたらしいんで顔を出した。正男、ハンカチ作戦は成功だ。よくやった」
新しいストーカー炙り出し作戦が、一般家庭から送られてきた無数のハンカチだった。
チャリティーの一環で、古びたハンカチを送ってきた人に抽選で、INORIのライブ録音アルバムをプレゼントするとツイッターで発信したところ、北はレイキャビク南はブルキナファソまで、無数のハンカチが送られてきたのだった。
ハンカチは流れ作業でジョナサン一家に回され、クンクンしたところ、たちどころに200人以上のストーカーが炙り出されたのだった。
正男はたまにジョナサンや水色を送迎するだけだった。
「俺はまあ、ここで座って曲作ってるからいいが、頑張ってくれてるのは」
「そうか、お前には新たな称号を与えんとな。特S級祓魔犬ジョナサン・エルネスト」
「うるさいゴーマ!ああプリムそのハンカチ貸してもう1回。クンクン。見つけたぞこいつだ。メル、ロージー。匂いだけじゃない、魔力の痕跡を嗅ぎ分けろ。発送先は、あ?スケベニンゲンだとさ。合ってるのか?このスペルで」
「お前が住めばいいって感じの場所だな?嫁愛人に囲まれてリゾート満喫だ。このスケベ人間。ライフルしまっとけ」
「勘解由小路、水色貸してくれ。ちょっと飛んでくる」
水色を抱いた銀正男は、赤い光線と化して消えた。
「まあ、30分くらいで戻るだろう。ちょうどいい。お前も休憩だ。おい、奥の部屋を貸せフォーン。ヘイデンは先ほど越中込みで俺に土下座した。意味は解るな?」
「勿論す!奥の応接室使ってくせ!」
レイモンド・フォーニックは、物凄い早さで恭順の意を示していた。
応接に入るが早いか、勘解由小路は言った。
「魂の選り分けから封じ、退魔まで覚えたのかお前は。メル坊はともかくお前が」
「ああ。他人事じゃなさそうだったし。魔王にな?」
「ああ、あいつはどっちかって言うと、俺の親父みたいなところがあったんだが、まあそうかあ。かーーあいつがなあ」
「だから、かーーって何なんだ?何度も言うけど」
「言ってもいいんだが、今は忘れとけ。気付いたのはアンズくらいだし。あいつはプオタでガノタ。現状はそれでいい」
アンズって、ガイアのことだよな?
まあいいや。勘解由小路はそう言って話を切り替えた。
「正直、俺は最近まで身動きが取れなかった。例のストーカーがな。水色に正男定岡さん、更にお前達の協力のお陰で、ヨーロッパ近辺がクリーンになった。ちょうどその頃だ。ロシアがふざけた国家になりつつあったのが」
勘解由小路はそう言って、ノートPCを広げた。
「茉莉、ロシアのウクライナ侵攻をダイジェストで編集しろ」
おいよー。そんな声が聞こえ、ジョナサンの目の前に、生々しい武力侵攻のニュース映像が流れた。
「既に死者は多数。近隣諸国はどいつもこいつも介入を避けている。理由はロシアが核保有国であることだ。要するに、ゴロツキが目の前で女をレイプしているが、手を出すと殺されるって状況だ。アメリカ以下、かつての戦勝国は腰が引けている。更に頭が痛いのは、ロシアをハブってしまうと困るって理由があったんだ。日本を含め、殆どのNATO国はエネルギー供給という点でロシアを無視出来ないってのがある。まあいい機会だったんで、日本としてはレロレロ化を推し進めているところでな?供給率が90%を越えたところで、日本人はムーンレイスとして飛び上がろうと思っているんだ。数億の月光蝶と共に」
お前は何を言っているんだ。急に。
「エネルギーを自国で供給出来ない国ってのは、いざとなったら困るんだよな?俺もテレビでウクライナのことは見てたよ。夫婦揃って進撃する寸前でミラージュに叱られた。お前に任せろってさ。ただ、心配なのはなあ。さしあたって、小麦はイースト・ファームとうちがいるから問題ないんだが、やっぱりエネルギーはなあ。うちの世界じゃ魔力炉搭載車とガソリンエンジン車は、まあ比率で言うと9:1ってとこだ。とりあえず、アメリカから原油輸入してるんだが、いずれそれも魔力炉搭載車に入れ替わっていくんだろうな。税金魔力炉車の20倍なんだがな。それでもいいって変わり者がたまにいるんだ」
たまにいる変わり者の息子が言った。
「レスターの奴はテスタロッサとコブラ買ってたな。まあ、排ガスによる環境破壊は今は無視していい。こっちは、さっき言ったストーカーの所為で一手遅かった。侵攻から15時間後、ロシアの爆撃を受けて、ウクライナの大統領が死亡した。全く面倒だ。ロシアの連中は、鬼の首を取ったかのように大戦果を喧伝し、ウクライナは指導者失って大混乱なんだろうが、ああちょうどいい。ウクライナの大統領からのへこたれんってメッセージが今生中継で」
PCにデカデカと映っていたのは、見覚えのあるフェアリー・ランドで暴れていたエルフの女だった。
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