モスクワ

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忌々しい(マカーキ)め。 ウクライナ人が撮影した映像を、ロシア大統領ウラジミール・プーティンは腹立たしそうに見つめていた。 プーティンの家は代々ソ連邦時代から、不吉な敗北者として認識されていた。 ラス・プーティン。その言葉で十分だった。 怪僧ラス・プーティンと言えば、帝政ロシアを蚕食し、挙げ句ロマノフと共にボリシェビキに惨殺されていた男だった。 プーティン以外に知る者はいないが、彼の先祖は本物のラス・プーティンだった。 ロマノフの王妃以下をたらし込んだことはなく、純粋に魔術をもって帝政ロシアを守護奉らんとしただけの男だった。 寄ってたかってボリシェビキに殺される前、アナスタシア皇女と密かに逃れた子供の子孫だったのだ俺は。 アメリカが力を失った時、ロシアには豊富な油田にガス田、そして、鬱陶しい弱小国が並んでいた。 ある晩、眠ろうとしていたら、突然癪に触ったのだ。 日本風に言うと、夜中に突然ザネリや柳生烈堂(やぎゅうれつどう)が憎くなる現象に苛まれたのと同じだった。 俺が!貧乏役人から必死こいて大統領になったのに!あの雑魚がああああああああああああああああああ!! コサックダンス踊ってるだけのカスのくせに、平和な毎日送ってるだと?! プーティンは、民族のルーツであるウクライナに、言い知れない敗北感を覚えていた。 所詮、ボリシェビキがメタメタに破壊した薄っぺらい文化しかないロシアに生まれたプーティンにとって、ウクライナは物凄く眩しく見えた。 あの、黒海を望む大統領官邸に住みたくなった。 周囲のウクライナ人は要らない。全員シベリアで樹の数でも数えてろ! とりあえず、クリミアを奪ってやったが、誰も文句言わなかった。 それで味を占めた。国内外で俺に調子こいた奴は殺る。 大体それで黙る。俺が世界最強の男だ。 そのまま、ウクライナを占領してやろう。 ユダヤ人の血を引くクソッタレなケレンスキーも死ね。 いよっしゃあああああ!ケレンスキー死んだ?!ウクライナ人如きが生意気だ。 コメディアン上がりのくせに、俺の言うこと聞かない奴は、面倒だナチストとして死ね。 殺って、そのまま混乱したウクライナ軍を薙ぎ散らそうとしたら、我が偉大なる戦車大隊は壊滅した。 訳の解らんドローン攻撃に、なす統べなく後退する羽目になった。 あん?雑魚ウクライナのくせに?抵抗?何これ。 そう思っていると、ゴミカスみたいなケレンスキーが、何故か色白のエルフになっていて(意味が解らん)、挙げ句不退転の檄を飛ばし、あえなくロシアはエルフ虐めのチンピラ国家になってしまった。 クソゴミカスが?ロシアを馬鹿にすんのか? もう1回ホロドモール(大飢饉)かましたらああああああああああああああああああああ!! 俺の爺さんは隣人3人とドイツ兵10人食ってんだぞ?!レニングラード包囲戦で! もうムカムカしていると、突然、全艦隊は嵐で訳の解らん全滅して沈むし。 挙げ句こいつか? 「なあ、こいつは何をしているんだ?」 クソ(マカーキ)は、オルガンに座ったまま、何かを食っていた。 「偉大なる大統領閣下。これなる不快な(マカーキ)は、プリンを食っております」 意味が解らなかった。 「偉大なる大統領閣下、この(マカーキ)が食っているプリンがこちらでございます」 「見れば解る。下らん日本製の猿餌だろう?」 さっさと諦めればいいのだあいつ等は。どうせ北方領土は返す気はないのだし。 まあいい。いずれサッポロとて我が領土になる。 「は。問題は、プリンの商標でございます」 「ハッキリ言え。お前も、心不全で引退したいのか?ショイーグ」 セルゲイ・ショイーグ国防相は、額の汗を拭きながら、しどろもどろに応えた。 「奴が食っているのは!あの!その!プッティーンプリンです!」 あ? プッティーンプリン?日本語解らんでも、言葉くらい聞き取れる。 つまり、こいつは。ウクライナのクズ共と、これを、プッティーンを、俺を、食うだと? プーティン大統領は、ブワっと額に青筋を浮かべ、ショイーグは、己の死を悟った。 「前線に指令を出す。ナチ共は一般市民であろうと何だろうと構わん。現在陸上にうろついている全てのナチ共を撃滅せよ」 「偉大なる大統領閣下、無差別でよろしいのですね?」 とりあえず、画面に写っている男は、ただ戦場でオルガンを弾いているだけだが。 こいつを撃ったら、どうなるだろう? 流石に、こいつを朋友と呼んでいる神(正直信じられないが)が、いや、あの神とて日本の防衛大臣である以上、我が国に侵攻することは絶対にない。 「無差別ではない。見ろ、オルガンを弾いているこいつに向けて全砲門を開け。ミサイルが効かない?我が邦の戦費が、1日1400億ルーブル(2兆5000億円)かかると言うなら、この猿は、その集中砲火に晒されて、生きていけるのかな?」 絶対に殺してやる。マサオ・シロガネ。 調子こいた奴は殺る。ウラジミール・プーティンは、激しい憎悪を漲らせていた。
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