蠱惑『西瓜』

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「こんにちは」  交番の若い警官がガラス戸を叩きました。後ろには古株の永田も同行しています。 「どうかされましたか?」 「どうぞこちらへ」  私は裏庭に通しました。骨だけになった父が黒土の中に埋まっています。 「これは?」  若い警官が驚いています。 「恐らく父の骨だと思います」  私は答えました。鑑定とやらをしなければ父だと断定出来ないでしょうから私は思いますと答えました。 「五十年前に女と逃げたと前任から聞いていた。前任はそれが怪しいと考えていたが定年で辞めた。その時私はこの家のことを聞かされた。やっぱりお前だったのか?」  違うと言っても証拠はありませんが一通りは説明するのが筋と経緯を話しました。 「五十年前の西瓜の種が今頃芽を吹いただと、ふざけるのも大概にしろ」  案の定古株は信用しませんでした。 「信用していただけないならこれ以上何を聞かれても答えようがありません。私の答えは今の通りでそれ以外は何も分かりません」 「それでお母様はどうされました?」  若い警官が訊ねました。 「お上がりください」  私は母の寝室に案内しました。横たわる母を見て私は唖然としました。仰向けに寝かせたはずの母が寝返りを打って横向きになっていました。 「どうしました?」  若い警官が私が慄くのを見て訊きました。 「お母さん、体調はどうですか?」 「ああ、ありがたいね」  私は母のいつもの返事に惑わされてそのまま交番に連行されました。残された母が心配です。それにブロック塀の工事が止まれば、竹藪が攻め寄せて来ます。父の骨が竹の根を止めていたのでしょうか。そのまま埋めてもらえば助かるのですがそうもいかないようでした。母は私が拘留中に死が確認されました。もう死人に口なしです。姉の証言も功を奏して私は不起訴となりました。掘り起こされた父の骨と壺に収められた母の骨を新しいブロック塀の脇に埋めました。翌年の六月にまた西瓜の双葉が芽生えました。母が煉瓦鏝で刺した西瓜の種でしょう。今度は私を誘っているのでしょうか。 了  
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