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蠱惑『西瓜』
庭の草むしりをしていた私は雑草とは違う双葉を見つけました。うちの庭は自慢するほど大きくありません。小さな車が二台停められるぐらいです。家の北側にあり陽が当たりません。裏は手入れのしていない竹藪で朽ちた竹が斜めに刺さっています。竹藪とうちの庭との間には二段のブロックが積まれその上は鉄柵です。その鉄柵も朽ち果てています。地主に柵の直しをするようお願いしましたがそちらでやればとつっけんどんな答えが返ってきました。確かに柵が欲しけりゃうちの敷地に設ければいいことですが、うちにもそんな余裕はありません。
母の面倒を看る私も還暦を過ぎました。母一人子一人の寂しい所帯です。双葉を発見したのはちょうど鉄柵の際です。
「お母さん、なんか珍しい双葉が出ているよ」
もう卒寿を迎えた母は耳が遠く私の声が聞こえません。
「珍しい双葉が生えているよ」
縁側に座布団を敷き、崩れた正座で座り込む母の耳に直接口を付けて話しました。
「そうかい、そりゃありがたい」
私の問いには必ずと言っていいほどこう答えます。
「そうだね、毟らないで伸ばしてみようか」
母は笑っています。恐らく何も聞こえていません。私が話し掛けるのが嬉しいのでしょう。私は双葉の周りの草だけを慎重に毟り取りました。双葉の根元を指で押さえ付けました。強く押せば双葉の根まで出てしまう。それぐらい柔らかい地表です。
「お母さん、そろそろ縁側の雨戸を閉めますよ」
「ああそうかい、そりゃありがたい」
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