蠱惑『西瓜』

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 翌日は晴れてブロックの基礎を掘る職人さんが三人来ました。 「おはようございます」  親方が私に頭を下げました。 「おはようございます。よろしくお願いいます」  私が挨拶を返すと不思議な顔をしています。 「どうかなされましたか?水道が必要なら風呂からホースを出しますよ」  私はモルタルを練る水が欲しいのだろうと先読みして言いました。 「いや、水は大家さんちの井戸からポンプで汲み上げます。失礼ですがこの家の方ですか?昨日挨拶に伺った時は若いご夫婦がお出でになりましたが、もしかしてご隠居さんでございますか」  親方が妙なことを言いました。しかし昨日縁側で見た母に似た若い女は誰でしょう。もしかしたら親方はその女のことを指しているのでしょうか。 「ええ、うちの嫁が失礼でもしましたでしょうか?」  私はとぼけて訊いてみました。 「いえいえ、昼に味噌汁まで出していただきました。おきれいでお優しい嫁さんですね」 「まあよく気が付いてくれます。倅にはもったいない」 「とんでもございません、今日はその西瓜を冷やすから昼にご馳走してくれると旦那さんが仰っていました。いい息子さんと嫁さんをお持ちになってご隠居が羨ましい。うちの娘はもうじき三十路になろうと言うのに付き合っている男もいねえらしい。ご隠居、縁があったら紹介してください。器量は中の下ですが家事はお手のもんですから」  よく喋る親方はハンチングを脱いで一礼しました。 「入るよ」  姉が訪ねて来ました。 「母さんは?」 「体調が悪いのかまだ床から出ていない。普段ならもう縁側に出ているんだが」  姉を連れて母の寝室に連れて行きました。
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